6月の終わり、次の秋号撮影のため荻野恭子先生のもとへ集まった取材陣3人。手には各々大事に育てたマイ豆板醤を持ち、不敵な笑みを浮かべている。先生の豆板醤講評が始まった。
世界各国の「おふくろの味」に精通し、自宅でも、保存食から調味料まで手づくりを実践する料理研究家の荻野恭子さん。現在、好評発売中の『四季dancyu2022夏』では、夏にぴったりな手づくり調味料2つを習っています。その一つが、そら豆からつくる豆板醤。「豆板」とはそら豆のこと。そら豆をゆでて小麦粉をまぶし、発酵乾燥をさせてそら豆から発酵臭がしてきたら、唐辛子と塩、水を混ぜて熟成させます。材料も少なく、プロセスもそう多くありませんが、やっぱり大事なポイントが。詳しいレシピは誌面でご紹介していますが、今回はこの撮影に携わった取材陣がそれぞれの自宅で手づくり豆板醤に挑戦。その体験記をご紹介しましょう。最後に、先生に味わってもらって誰の豆板醤が一番おいしいか評価してもらいました。
今回は、その結果編。豆板醤を一番おいしくつくれたのは、誰?
3ヶ月前の撮影時に課された、豆板醤を手づくりするという課題。満を持して集まった取材陣の手には豆板醤が握られている。ここで簡単に、それぞれの豆板醤を紹介しよう。
材料費はカメラマンIがいちばん高そう。しかも、最初にスーパーで購入したそら豆で失敗し、取り寄せ品で再チャレンジしたそうで、気合の入り方もちょっと違う。でも編集S&私だって、先生が愛用している青ヶ島の塩を使ったもんね。しかも編集Sは唐辛子を2種類ブレンドするなんて。2人とも手強い。
ジャッジに公平を期すため3つの豆板醤は小皿に移し、先生にはどれが誰のものとは伝えず、ブラインドでテイスティングしてもらうことに。並んだ小皿を見ると、もうその時点で見た目はもちろん香りもそれぞれ違って、同じレシピで仕込んでも、材料や人の手が変われば仕上がりもこんなに変わるものなのかと、わかってはいても、あらためて感じてしまう。
まず先生が味見したのは、見た目がなぜか鮮やかな赤にならず、うっすら白っぽい一皿(そ、それ私のですう……どきどき)。
「ああ、これは小麦粉がちょっと多かったのかもね。教室の生徒さんも、同じようになる人がいるのよ。でも、ちゃんとできているから大丈夫。まだ熟成が浅いからしょっぱいけど、もっと進めばおいしくなるわよ」。
なんと、小麦粉が多い!大さじ1きっかり使ったんだけどなぁ。きっと、そら豆の水分とのバランスとか、いろいろあるのね。
お次はカメラマンIの小皿を味見。
「うん!よくできてる。これはもう食べられるわね。発酵のいい香りがするし、ちゃんと熟成してるわよ」。
カメラマンI、黙っていても顔がにんまりしてますよ。
最後は編集S。
「唐辛子が甘い感じがするわね。これも熟成が進んでおいしいけど、まだ少し塩が立ってるかな」。
韓国産唐辛子独特の甘さをほんのひと口で見破るなんて、先生やっぱりすごい!
「中国では、そこにあるものでしかつくっていないけれど、日本は材料の選択肢もいろいろあるし、何を使うかでも個性が出るわね。特に塩は、少々値が張ってもいいものを使ってね。仕上がりが変わります。すべてに共通するのは、日々かき混ぜること。塩のあたりが丸くなるまで、かき混ぜながら熟成させれば、ちゃんとおいしくなるから」。
では先生、合格と失格のジャッジをお願いします。さらに優勝を決めるなら、この中のどれでしょう……?
「えー、失格なんてないわよ!優秀な生徒たちだから、もちろん全員合格!」
よかった〜。とりあえず、ホッと胸をなでおろす我々。
「でも、ここから一つを選ぶなら、これかな」。
先生が手にした小皿を見て、カメラマンIがガッツポーズ!!
「おー!ありがとうございます!次もがんばるぞー!」
カメラマンIの得意料理は、麻婆豆腐。自家製豆板醤でますます麻婆豆腐がおいしくなりますね。
次回の『四季dancyu2022秋』で荻野先生に習う手づくり調味料は、柚子胡椒とXO醬。
さあ、どっちで勝負する?
サロン・ド・キュイジーヌ主宰。世界各国の郷土料理を実際に現地で食べ、つくり、体験するのがライフワーク。特にロシア料理、食文化に造詣が深い。テレビ出演や著書も多数。
文:鹿野真砂美