松尾貴史さんが札幌に行く機会があれば一度は訪れたいと思っていた店。そこは欧風カレーから北海道名物のスープカレーに加え、スパイスカレーも楽しめるというカレー愛に満ちたところでした――。
以前私は、「スパイスカレー」という言葉に違和感を覚えていた。スパイスをカレーに使うのは当たり前で、「わざわざそんな呼称をつけなくても」という気持ちだったのだが、欧風カレーやスープカレーよりも、「スパイスの役割が断然大きいカレー」という意味では、無理のない表現なのかもしれない。なぜか、大阪を中心に広がっていったスパイスカレー人気だが、距離の関係だろう、北海道ではまだ珍しい部類に入るのではないだろうか。札幌にある「黒岩咖哩飯店」は、ルーを使ったカレーも、スープカレーも、スパイスカレーも提供している、カレー愛に満ちた店だ。
札幌に行く機会があれば、一度は食べてみたいと思っていたこの店は、カレー好きで知られるタレントの黒岩孝康さんが経営されている。タレントとして主に北海道で活躍されているのだけれど、東京に来たときには下北沢「パンニャ」を訪れてくれることもあり、こちらも一度うかがってみたいと思っていた。
北海道大学植物園にほど近いオフィスビルの地下のお店に向かうと、表の案内板には、炙りチーズカレーや黒辛カレーなど、食指の動くメニューが書かれている。しかしここは、スパイス咖哩一択で行かねばと決意して、入店した。
黒岩さんには会えなかったが、店長がすこぶる親切に案内してくださった。まさにスパイスカレーの王道を行く、香りが鮮烈な一皿が到着。私の好きなフライドオニオンや、スパイスカレーには欠かせないアチャールが乗っていて、そこにカスリメティ(フェヌグリークの葉を乾燥させたハーブ)が花を添えている。そして、札幌ではお馴染みの骨つきチキンレッグの存在感がありがたい。スプーンの先でついてみれば、いとも簡単にほぐれてくれる品の良さ。スパイスカレーではあるけれど、グレイビーにはルーのような滑らかさが感じられる。
スパイスのことばかり言っているようだけれども、香りに重ねて旨味も強い。フライドオニオンのクリスピー感が快適な食感で、香ばしさと共にいい脇役になっている。アチャールの爽やかさ、赤キャベツのザワークラウトもまた然り、この酸味のアクセントでまた食が進む。
黒岩さんのカレーはさらに発展しているようで、複数の支店も営業されているらしい。しかし、次はいつ札幌に来られるだろうか。
文・撮影:松尾貴史