「インネパ食堂」で飲む!
道玄坂のネパール酒場で、"炎のモモ"を肴に飲む──渋谷「ローカル渋谷」前編

道玄坂のネパール酒場で、"炎のモモ"を肴に飲む──渋谷「ローカル渋谷」前編

渋谷のど真ん中に、ハイレベルなインネパ飲みスポットがあった!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第17回目は、若者の街で、いつもよりちょっとキラキラした(?)ネパール飲みを堪能しました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回のお店は、2021年3月にオープンした「ローカル渋谷」。そこで待っていたのは、他のインネパ店とはひと味違うメニューの数々でした。

看板

華やかな女子会でにぎわうインネパ店

若者でごった返す渋谷・道玄坂。そのふもとにある「渋谷109」からわずか30メートルほど歩いたところにある、マッサージ店や雀荘、ガールズバーなどがテナントに入る雑居ビル。ちょっと入りづらい看板を横目に階段を上ると、ちゃんと「ローカル渋谷」はありました。

渋谷
看板
看板

座席はカーテンで仕切られ、ちょっとした個室感覚で飲食できます。壁にはインネパ店でおなじみのネパール壁画もありますが、どこかポップアートっぽいタッチで、おしゃれな雰囲気が漂います。

店内
編集M
まずは渋谷のど真ん中といえる立地がすごいですね。まさかこんな所にまでインネパ店が進出しているとは
小林
それと洋風ダイニングっぽいメニューや、ムードのある内装など、若い女性客を強く意識している点も特徴的です
田嶋
僕もこの店にはこれまで何度か訪れていますが、確かにネパール人客による女子会の場面をよく見かけます

何はともあれ乾杯しましょうということで、前菜には生春巻きとソーセージといった「非インネパ料理」を。そして酒は、生ビールとレモンサワーを注文。

エビ入り生春巻き
エビ入り生春巻き680円。
ガーリックスパイスソーセージ
ガーリックスパイスソーセージ480円。

“エビ入り生春巻き”は、ぷりぷりの海老をはじめ具がみっしり詰まり、しっかり辛いスイートチリソースを付けていただきます。プリッ!とした食感が心地よい“ガーリックスパイスソーセージ”も、にんにくとともにチリがよく効き、程よい辛さ。いきなり酒が進みます。

田嶋
他にも“チーズハム&オリーブ”だったり、“サーモンカルパッチョ”だったり、あるいは本格グリル肉料理だったりと、どこかパーティー感のあるメニューが多いですね。インネパ店にして、なぜこういったラインナップに行き着いたのでしょう?
小林
インネパ店のメニュー構成は、オーナーやシェフが過去に勤めた飲食店の影響を受けることが非常に多いです。たとえば居酒屋に勤めた人であれば、梅キューや焼き鳥などの居酒屋メニュー、韓国料理店で働いた経験のある人であれば韓国メニューも出す、といった形ですね。その点、ここの店長さんとスタッフさんは、エスニック料理店「トムボーイ渋谷道玄坂店」に長年勤めたそうです

そんな話を聞きながら編集Mが頼んだのは、インネパ店ではちょっと珍しい“モヒート”。しかもメニューには“自家製”の文字が。他にも“ブルーラグーン”や“ピニャコラーダ”といったおしゃれなカクテルが、ズラッと揃っています。

モヒート
壁

“モモ”のバリエーションが、近年急速に広がっている

小林
「トムボーイ」といえば、ナンやカレーのインド料理だけでなく、タイ、ベトナム、さらには洋風ダイニングの要素も含めた華やかなオリエンタル料理を出す店です。そうした特徴をこの店も色濃く引き継いでいるのでしょう。ただ、ここ「ローカル渋谷」の面白いところは、そうしたメニューとあわせ、スクティやチョイラ、ダルバートなど本格的なネパール料理もしっかりあるところです

ちなみに「ローカル渋谷」の店名は、「渋谷を知り尽くしたスタッフが手がける、渋谷といえばここといわれる店」を目指して付けたのだそう。

そんな同店のユニークさを体現するメニューの一つが、“ファイヤースープモモ”です。ネパール餃子が、旨味の効いたスープとともに鍋で供されるのですが、なぜか中央から炎が吹き出している! ただ、お味はおだやかで辛くもなく、シンプルにモモの味わいを楽しめます。

ファイヤースープモモ
鍋の真ん中から煌々と炎が上がる、ファイヤースープモモ790円。
小林
“ファイヤー”が味にどれだけ関係しているかはわかりませんが(笑)、ビジュアル的な観点ではとても秀逸です。ネパール人は、こういうパーティー感ある料理を囲んでワイワイやるのが好きなんでしょうね。実はこの鍋、本来はタイ料理に使うもので、3年ほど前はネパール人からよく弊社に問合せがありました。きっと、このファイヤーモモが登場し始めた頃で、ネパール人の間でちょっとしたブームとなったのでしょう

さらにそこへ到着したのが、“冷やしスープ付きモモ”です。名前から、冷製のモモを想像していましたが……それは熱々のモモに冷たいたれをかけることで、ちょうど人肌ぐらいの温度になったモモでした。ごまと玉ねぎを使ったたれは酸味が程よく効き、スパイシーなモモと一緒に食べると、実にジューシーなひと口となります。

冷やしスープ付きモモ7
ごま風味のたれがかかった、冷やしスープ付きモモ780円。
編集M
“冷やし”と名乗るにはちょっとぬるいですが、キンキンに冷えてないところが逆にアジアっぽい(笑)。うん、これはこれでとてもおいしいですね!
小林
モモといえば、以前は蒸しモモくらいしかありませんでしたが、近年はそのバリエーションが急速に広がっていて、これ以外にも揚げモモやチョイラモモ、さらにネパール本国ではなんと、モモが乗ったピザなんかも見かけました

渋谷らしい華やかなパーティーメニューと、本格ネパール料理が融合した「ローカル渋谷」。後編では、この店のもう一つの売りである肉料理メニューを満喫します!

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

ローカル渋谷
  • 【住所】東京都渋谷区道玄坂2‐28‐2 MMビル2階
  • 【電話番号】03‐5422‐3482
  • 【営業時間】11:00~22:30(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】JRほか「渋谷」より徒歩3分

文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。