蒲田の酒場街に、謎に包まれた“ネパールランド”があった!?──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第16回目は、飲みの気分を上げるネパール壁画を巡り、インネパ店をはしご酒してみました。
近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。
※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。
案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。
飲みの舞台は前回に続き、トリップ感溢れるネパール壁画のある蒲田「チョウタロ」。この居酒屋が入る雑居ビルには、さらにディープな楽しみが待っていました。
「チョウタロ」店内を埋めつくす壁画のビジュアル効果もあってか、いつにも増して気持ちよく飲み食いしていく一同。
ここで登場したのが、ネパール料理でも屈指の人気つまみ、スパイシー干し肉=スクティ。今回は、スクティをたっぷりのスパイスで和えた“スクティ・サデコ”を注文。マトン肉のスクティは、なかなかハードコアな硬さと辛さが現地っぽさを感じさせます。そこにレモンの酸味とにんにく・生姜のアクセントが渾然一体となり、ひと噛みごとに旨味がジュワッと口内に広がります。
そんな酒肴を迎え入れるべく頼んだお酒は、ネパール産のウォッカ、“8848”です。小林さんはコーク割り、田嶋はロックでいただきます。商品名の“8848”は、ネパールが誇る世界一の霊峰・エベレストの標高から採られたそう。キリッとした飲み口とほのかな甘味が、スクティに合います。
話題は再び、インネパ店に多く見られるようになった壁画について。
ネパール壁画について真面目に語る我々。そんな場を和らげるように登場したのが、お口直しの“ラールモハン”。インドではグラブジャムンとして愛され、“世界一甘いお菓子”と呼ばれることもあるスイーツです。この店では、ヨーグルトソースを纏って提供されていました。
こうして3人は、同ビル内でまさかのインネパ店はしご酒を敢行することに。階段を1階分上がると、ありました。その名も「ドウターリ/友達」。
店内に入ると……確かにまた壁画がある!のですが、その題材は、ベリーダンサー、ビレンドラ国王夫妻(※)、ラッセン風のイルカなどなど、だいぶ多岐にわたります。
※2001年に起きたネパール王族殺害事件で銃殺された当時のネパール国王と王妃
メニューを見ると、インド料理にネパール料理、タイ料理、そしてピザやパスタなどイタリア料理まで揃っています。スタッフに聞くと、各国料理をそれぞれ別々のネパール人シェフが担当しているとのこと。
そしてネパール度の高い料理もちゃんとあります。そこで飲みの締めに、ネパール定食“ダルバート”と、インスタントラーメンを使った“チャウチャウヌードル”を食べることに。
ダルバートは洗練された味わいで、とくにネパール山椒・ティムルを使ったトマトアチャールの香り高さが白眉でした。
チャウチャウヌードルは、添付の粉末スープではないオリジナルスープで作っているようで、スパイスとだしの風味がやさしい美味しさながら、程よくジャンクっぽさも残していて、こりゃ飲みの締めに最高だ!
ネパール壁画の探求を入り口に、よりディープなインネパ世界に入り込める、蒲田の“ネパールランド”。何かに行き詰まった時、この雑居ビルではしご酒すれば、意外なブレークスルーが起きるかもしれません。
インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/
文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部