スパイス料理研究家から強く薦められた、パキスタン料理店に訪れた松尾貴史さん。扉をくぐった瞬間に感じる濃厚なエキゾチックな雰囲気、パンチの効いた絶品の料理の数々に思わず虜になったといいます――。
スパイス料理研究家の一条もんこ先生が、「是非とも訪問すべし」と強力に推してくるパキスタン料理の名店があるので、それならば、とご案内いただくことにした。
埼玉県八潮市、電車ならばつくばエクスプレスの八潮駅が最寄りだ。カレー仲間、先生と夕方4時に改札で集合して、なぜかスーパーマーケットに向かう。パキスタン料理のお店なので、消毒目的以外のアルコールはない。しかし、持ち込みであれば容認していただける模様なのだ。赤ワイン、スパークリングワイン、ビール、ハイボール缶、梅酒などを買い込んで、一路「カラチの空」に向かった。「カラチの空」とは、なかなかドラマチックな店名ではないか。駅から一度も折れることなくまっすぐの1.6キロ、歩けなくはない距離だろう。
入店した途端に声が上がる。「ここ、パキスタンじゃないか!」陳腐な言い方だが、入店した途端、本当にパキスタンにいるのではないかと思う濃厚なエキゾチックさが充満している。しかし、メンバーの誰ひとり、パキスタンに行ったことはない。
ご主人のザヒット・ジャベイドさんがメニューのボードを示して解説してくれる中、初心者の我々は、経験者のもんこ先生にメニューを一任して、皆でシェアしていただくことにした。
金・土・日曜日限定のハリーム(今回は金曜に訪問)は是非物として、サーグゴースト(菜の花のカレー)と、マトンビリヤニを注文。4人で3品ならば大丈夫、と思いきや、なかなかにポーションが大きい。
スパイスの効いたフィッシュフライの美味さで、最初からやられてしまった。これはすごく旨い!スプリングロール(春巻き)も独特の食感で、タンドリーなどにつけるべく出してもらったミントのソースをロールの中に滴らせて味変を堪能。
タンドリーチキンのスパイシーさがなかなかのパンチ、滋味もあって最高のつまみになる。いや、つまみ前提で調理されてはいないのだが。
ポテトのポリヤルのようなものを生地で包んだ饅頭風の円形の何かも、懐かしいようなカレー風味の味わいがあって、胃袋に余裕があればおかわりしたいところだ。
独特のスパイス使いに、結構な辛さで交感神経のスイッチが入ったのか、全員なぜか興奮気味になっていた。味は素晴らしく旨く、美味く、食感がたまらない。
高額な航空券も買わずに、トランジットも隔離も保安検査場もなしに、こんな異国情緒が味わえるのはどれほどコストパフォーマンスが良いのか!
埼玉県八潮市にあるパキスタン、現地では「ヤシオスタン」と異名があるらしい。これは再訪必至だ。
文・撮影:松尾貴史