「インネパ食堂」で飲む!
ゴージャスなインネパ店の「タイ料理」で飲む!──築地「ダイヤモンド」前編

ゴージャスなインネパ店の「タイ料理」で飲む!──築地「ダイヤモンド」前編

えっ?インネパ店なのに、本格的なタイ料理が揃ってる!?──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第9回目は、インネパ店らしからぬゴージャスな雰囲気の店で、未体験のインネパ飲みを体験してきました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回は「ザ・ロイヤルアジアンキッチン ダイヤモンド 聖路加ガーデン店」に訪れました。

インド・ネパール料理をつまみに、タイビールを飲む

築地駅からしばらく歩くと、ウォーターフロントにそびえ立つ聖路加ガーデンタワーが見えてきます。隅田川の向こうには、満点の夜景。あまりにもアーバンな雰囲気に、これからインネパ飲みへ向かうことを忘れてしまいそうです。

タワー内部
聖路加ガーデン、エントランス内。
夜景
建物の裏手にはリバーサイドの夜景が広がる。

ビルの1階にあるレストラン街に「ダイヤモンド」はあります。店は内装も外装もリッチな雰囲気。今まで訪れてきたインネパ店とは、だいぶ趣が違います。ただよく見てみると、われわれが愛するインネパ食堂でおなじみのホッピーのポスターもちゃんと貼り出してあります。そしてメニューを見ると、インド料理、ネパール料理と並んで、タイ料理を推している模様。

内観
ザ・ロイヤルアジアンキッチン ダイアモンド 聖路加ガーデン店。1階のレストラン街にある。
内観
広々とした店内で、ゆったり食事ができる。

せっかくタイ料理がある店に来たのでと、まずは“シンハー”で乾杯。軽やかな口当たりのタイビールはキンキンに冷えていて、「うめええ」と声が出てしまいます。

アルコアチャール、シンハービール
アルコアチャール600円。シンハービール680円。

飲むのはタイビールですが、一応“インネパ飲み”連載ですから(笑)、まずはネパール料理の“アルコアチャール(ゆでじゃがいものスパイス和え)”を注文。つくりたてでホクホクに温かく、しょうがやにんにくがしっかり効いていてビールが進みます。立派な店構えそのまま、きちんと丁寧につくられた印象のおいしさです。

続いて、いよいよタイ料理を注文。まずは、タイ風さつま揚げ“トートマンプラー”から。クラッシュナッツ入りの甘いソースとともにいただきます。

トートマンプラー
トートマンプラー850円。
田嶋
素朴な味わいで現地感があって、おいしいな~。これまたビールに合う!
小林
ここのオーナーは、四谷や青山に店があるインド料理店「ディップマハル」出身です。その「ディップマハル」の運営会社は半蔵門のタイ料理店「サワディー」も経営しています。またインド料理&タイ料理レストラン「ディップパレス」では、メニューにタイ料理も入れていたことから、そのスタイルを踏襲したんでしょうね
田嶋
実は僕、以前「ダイヤモンド」にダルバートを食べに来たことがあるんです。“ネパールスペシャルセット”というメニュー名で、価格は2,100円と一見割高に感じますが、品数が多く、酒も1杯つく。実はかなりリーズナブルなんですよ。味もバッチリおいしかったです
ネパールスペシャルセット
田嶋さんが以前この店に訪れたときに食べた、“ネパールスペシャルセット”。カレー1種とダルスープ、副菜などがつく豪華版ダルバートに、ネパールビール(もしくは他のドリンク)がついて2,100円はお値打ち!(要予約)。

インネパ食堂にタイ料理を出す店が多い理由は?

なぜネパール人が経営する店で、これだけ本格的なタイ料理を提供できるのでしょう? その辺りを店のスタッフに聞いてみると……。

スタッフ
当店はネパール人、インド人、タイ人の各国シェフを雇っていて、彼らがそれぞれ自国の料理を作っているんです
メニュー
「ダイヤモンド」店頭に掲示されるメニュー。インド・ネパール料理とタイ料理が、ごく自然とメニュー上に並ぶ。

しかし不思議なのは、この店に限らず、タイ料理を提供するインネパ店が少なからずあること。インド料理店の看板に“アジアン料理”とか“アジアンレストラン”と書いてあるのをよく見かけますが、そういった店には、だいたいタイ料理がメニューに並んでいます。

小林
もともと日本人にとって、タイという国には手近なリゾートのイメージがあります。80~90年代のエスニック料理ブームで、タイ料理が一躍人気になりましたしね。きっとどこかのインネパ店が、そうした日本人のニーズをあてこんでタイ料理も出し始めたんでしょうね。この連載でも繰り返し言及しているように、ネパール人の料理人は適応能力が高いですから、その後、多くの店が踏襲していったのだと想像できます。それにタイカレーは、元となるカレーペースト製品が優秀で、ネパール人でも本格的な味を比較的手軽に再現できる点も、インネパ店でタイ料理メニューが広まった理由の一つでしょう
店内
店内
小林
タイ料理を出すインネパ店は巷によくありますが、その本気度はピンキリです。それなりにメニュー数の多い店もあれば、ぽつんとグリーンカレーだけがあるというレベルの店も少なくありません。しかし「ダイヤモンド」では、タイ料理だけで数十種類あり、専門のタイ人シェフも雇っている。また、タイのスイーツ“カノムチャン”といったマニアックなものも揃えていたりと、タイ料理への本気度はかなり高いと言えますね

タイ料理の話をしているうちに思わずもう1杯飲みたくなり、タイ産ウイスキー“メコン”をオーダー。独特の甘みが立った味で、味の強い料理と好相性です。

小林
昔から、タイのお酒といえばメコンのイメージが強く、私もタイに行った時はよく飲みましたね
メコン
タイの代表的なウイスキー、メコン。
小林さん
バックパッカー時代を思い出しつつ、メコンをグイッと飲む小林さん。

インド料理にネパール料理、そしてタイ料理がごちゃ混ぜになった、ここ「ダイヤモンド」で飲んでいると、内外装の不思議なゴージャスさも手伝って、自分のいる場所が一瞬わからなくなります。

後編では、そんなカオスな飲みがさらに勢いづき、“禁断のセットメニュー”に手を出してしまいます!

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

ザ・ロイヤルアジアンキッチン ダイヤモンド 聖路加ガーデン店
  • 【住所】東京都中央区明石町8‐1 聖路加タワー 1F
  • 【電話番号】03‐6278‐8678
  • 【営業時間】11:00~16:00(L.O.) 17:00~22:00(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】東京メトロ「築地駅」より徒歩7分

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。