料理とヱビスを愉しむ時間をテーマに、うなぎ専門店の東京・入谷「入谷鬼子母神門前のだや」と、東京・渋谷「花菱」へ。うなぎが焼き上がるまでの間、一品料理とヱビスを味わい、本命のうな重を堪能。絶品のヱビスが飲めるうなぎ店なら、待つ時間もまた味わい深いのです。
気温も湿度もぐんぐん上昇してくるこの季節。精をつけたいところである。とくれば、思い浮かぶのは、やっぱりうなぎ。
せっかくなら、専門店ならではの一品料理も味わいたい。極上のヱビスと一緒に。
そこで目指すのは、「絶品ヱビスの店」である。「絶品ヱビスの店」とは、ひときわ、高品質なヱビスブランド樽生を提供しているお店のことで、クリーミーな泡、クリアなビール、コールドな温度を実現したヱビスが味わえる。
まず向かったのは、東京・入谷にある「入谷鬼子母神門前のだや」だ。
数々の名職人を輩出してきたうなぎ職人専門の調理士会直営で、当主であり、店の四代目となる江部惠一さんが毎日腕を振るっている。
料理人歴40年。自身も料亭などでうなぎ職人としての修業とともに和食の腕を磨き、2013年に「入谷鬼子母神門前のだや」を継いで、この場所に新装開店した。
品書きには、他の店では見たことのないような料理が並んでいる。うなぎは注文してから焼き上がるまでに、約40分かかるという。
ならば致し方ないと、にんまり。ヱビスビールで喉を潤し、オリジナルの料理に舌鼓を打とうではないか。
数分後、純白の泡をたたえた黄金色のヱビスビールが運ばれてきた。額に浮いた汗を押さえながら、さっそく口をつける。華やかな香りが立ち上り、深みのあるコクが広がる。
ゴクリと喉を鳴らし、さらにもうひと口。満足のため息がこぼれ、生き返ったような心持ちになる。
続いて、“うなぎの酢〆うら梅造り”を。初めて食べる味なのも当然。「のだや」のオリジナル料理で、江部さんがさまざまな料理店で多彩な経験を積んできたことが、発想の源になっている。
「のだや」では、「共水(きょうすい)」「和匠(わしょう)」「兼光(かねみつ)」という3種のうなぎを扱っている。
静岡県産の「共水」は、幻のうなぎとも謳われる。生産量が限られており、扱う専門店は全国でも約40店しかない。人が飲めるほど清らかな湧き水で養殖しており、天然に近い身質と言われ、「のだや」では資源保護の観点から採用している。
宮崎県・佐土原産の「和匠」は、豊かな自然に囲まれる温暖な地で、天然うなぎに勝るとも劣らないおいしさと栄養価を目指し、品質改良を重ねている。
そして、愛知県・三河一色産の「兼光」は、完全無投薬、オリジナル飼料で育てている。
三種三様の味わいで、好みや気分で選べるのがうれしい。
幸いにも、今日は「共水」の入荷があるので、注文をしよう。
ヱビスビールを味わいながら待つことしばし。厨房ではうなぎのおいしさを引き出す職人技が繰り広げられていた。
珍しいオリジナルのうなぎ料理とヱビスビールで、すっかり上機嫌になっているところに、「共水」のうな重が登場!
堂々たるボリューム。艶やかさ。食欲をそそる香り。噛みしめる度に、芳しく深みのあるたれと脂ののった身の旨味が口いっぱいに広がる。透明感のある輝きを放つご飯、山形県・和名川ファーム産「つや姫」との相性も抜群だ。
そこに、ヱビスビールをひと口。ふくよかな旨味と豊かなコク、心地よい苦味が一体となり、口中が幸せでいっぱいになってしまう。
江部さん夫妻は、ヱビスを選ぶ理由をこう語る。
「私たち自身が好きなことが一番。クリーミーな泡もしっかりした味わいで、おいしくないというお客様はいらっしゃらないのではないでしょうか。おいしいヱビスビールで喉を潤せば、自然と食欲もわいてきますよね」
次に、創業約100年の東京・渋谷「花菱」へ向かった。賑やかな道玄坂沿いに建ち、大正から昭和前期にかけて活躍した歌人・斎藤茂吉が足しげく通った店としても知られる。大のうなぎ好きで、こんな歌を残している。
「あたたかき鰻を食ひてかへりくる道玄坂に月おし照れり」
歌のモデルになったのは、まさしく「花菱」のことで、記録によると1日に2度来店した日もあったという。
「花菱」でも、「共水」のうなぎの扱いがある。通常のうなぎでも焼き上がりまで40分ほどかかるが、「共水」においては注文後に捌くため、約1時間を要する。
迷うことなく、ヱビスとうなぎ店ならではの一品料理を味わおうではないか。
美しく注がれたヱビスビールが運ばれてきた。泡のきめの細かさやよどみのない黄金色のビールに料理への期待も高まっていく。
定番の“うざく”は、ごく薄く包丁を入れた歯ごたえのよいきゅうりと、香ばしく焼き上げたうなぎの相性が格別。涼やかな見た目も食欲をそそる。
“うまき”は想像以上のボリューム感。卵3個を使うと聞いて納得。大きく厚みもあり、しっかりとした食べごたえがある。だしを含んだほのかに甘い卵と、そこに巻かれたうなぎが口中で混ざり合い、次の1杯を誘う。
お待ちかねの“共水鰻重”がやってきた。そして、ヱビスビールをもう1杯。
うな重とヱビスビールのコンビに、ごく普通の日でもハレの日のような気分になってくる。
店主の阿部さんによると、ほんのり甘いたれは、創業時から注ぎ足してきたものだという。
戦時中には、阿部さんの祖父母が岐阜に疎開した際には、壺に入れたたれを携えて守ってきた。調味料は決まっているが、その配合は一子相伝。日々焼き上げるうなぎの脂や旨味が積み重なり、より深い味を醸し出している。
「花菱」でヱビス樽生を提供するようになったのは、現在の店舗が入るビルを建てた1989年からのこと。ヱビスを選んだ理由を、阿部さんはこう語る。
「僕が好きなビールだったこと。そしてサッポロビールのファンだったことですね。生ビールはヱビスビールですが、瓶ビールは黒ラベルを扱っています。加えて、サッポロの営業担当の方の存在も大きいですね。33年前、ビルを建て替えて新装開店する際に、生ビールのサーバーを導入しました。当時の営業さんがとても面倒見がよく、親身になってくれたのです。ほかのうなぎ屋に案内してくれて、おいしいビールの提供の仕方やそれに合う料理のことなどを情熱的に教えてくれました。もう退社されましたが、そのご縁が今につながっています」
焼き上がりに時間を要するのが必至なうなぎ。
「いいうなぎ店はお新香がおいしい」なんてことをよく耳にするが、絶品のヱビスがあればなおのこと。
待ち時間がもて余すどころか、むしろ贅沢な時間になってしまうのだ。
入谷鬼子母神前のだや
【住所】東京都台東区下谷2‐3‐1
【電話番号】03‐3874‐1855
【営業時間】11:00~14:00(L.O. 売り切れ仕舞い) 17:00~20:00(売り切れ仕舞い)
【定休日】月曜(祝日の場合は、翌火曜)
【アクセス】地下鉄「入谷駅」より1分
花菱
【住所】東京都渋谷区道玄坂2‐16‐7
【電話番号】03‐3461‐2622
【営業時間】11:30~14:00(L.O.) 17:00~21:00(L.O.)
【定休日】日曜 祝日
【アクセス】JR・私鉄・地下鉄「渋谷駅」より3分
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文:長谷川ミヤ 写真:山出高士