料理とヱビスを愉しむ時間をテーマに、京都へ飛んだ。懐石料理「菊乃井 露庵」と「一品料理 伊セ藤」で、初夏の食材と京都らしい風情を味わう。もちろん、冷えたグラスに注がれた“絶品ヱビス”もご一緒に。
京都へやって来た。京都駅から町中へ近づくにつれ、心も胃袋も和のモードになってくる。
初夏の若鮎や鱧(はも)、目にも涼やかな八寸。凛とした王道の懐石料理にも触れてみたいし、地元の常連客にまぎれて和気あいあいと愉しめる一品料理もいい。そこにヱビスがあればなおのこと。さっそく「絶品ヱビスの店」を目指した。
「絶品ヱビスの店」とは、ひときわ、高品質なヱビスブランド樽生を提供しているお店のことで、クリーミーな泡、クリアなビール、コールドな温度を実現したヱビスが味わえる。
向かったのは、京都の中心地である四条木屋町からすぐ、高瀬川沿いに立つ「菊乃井 露庵」である。和食のユネスコ無形文化遺産登録に尽力した村田吉弘が営む料亭、京都・東山「菊乃井 本店」から暖簾分けして、1989年に開いた。現在は、弟の村田喜治さんが引き継いで切り盛りしている。
至便な立地にありながら、暖簾をくぐると、その先に水を打った石畳が敷かれており、にわかにしっとりとした情緒に包まれる。
カウンターの中には店主の村田さんと料理長の丸山裕樹さんが立ち、笑顔で迎えてくれる。
「この時季は、目の前の高瀬川にほたるが飛ぶんですよ。こんな町中を流れる川なんですけどねぇ」
料理は月ごとに替わるコースのみ。さっそくヱビスビールと一緒に注文しよう。
運ばれてきた八寸は、ほたる籠で覆われている。最初の会話が思い出される。
ほたる籠を外すと、数々の料理が彩り豊かに盛り込まれている。
涼やかな取り合わせを愉しみながら、美しい料理をひとつずつ食べ進める。ヱビスビールもひと口、ふた口。交互にじっくり味わううちに、「露庵」の世界にどっぷりとはまっていく。
村田さんが言う。
「本店に対して、『露庵』はかしこまりすぎないカジュアルな雰囲気の店です。普段使いされるお客様も多いですよ。本店は庭を設え、仲居さんがおもてなしをしますが、こちらは若い料理人。荒々しさもあるかもしれませんが、お客様に喜んでいただいています」
料理のコンセプトや味つけは本店同様。時に洋の食材を使うのも「食材に国境はない」という「菊乃井」に通じる考え方からである。
「露庵」がヱビスを提供したのは、開店と同じ1989年からのことである。
「兄と一緒に試飲して、ヱビスがおいしいからと決めました。他社の営業さんも来てくれますが、京都という土地柄でしょうか。ここと決めたらずっと付き合うんです。いろんなところに分けて頼んでは、水くさくなってしまいます」
そう話しながら、村田さんが目の前で骨切りした鱧を湯引きにする。
鱧の骨と昆布、鰹でとっただしにくぐらせ、温かいまま器に盛る。冷やさないので、身の脂が固まらず、食感はふわふわ!
鱧の身の風味と濃厚なだしの味わい、梅肉のたれの爽やかさと旨味が口中で一体になる。
続いて、目の前に小さな炭台がセットされ、鮎の塩焼きが運ばれてきた。
村田さんが説明を添える。
「琵琶湖の若鮎です。ヱビスと合いますよ。濃厚なヱビスには、塩焼きなどの淡白な味わいの料理が合うんじゃないでしょうか。吸い物の後にヱビスビールを飲んでも、すっきりした後味を愉しめると思います。1杯目に注文される方が多く、銘柄を聞かれてお答えすると『じゃあ、お願い』となります。『ヱビス』と聞いてやめる人はいないですね」
丸山さんが言う。
「僕らは朝から晩まで店に籠もりっきりですが、カウンターのお客様が端から『生』『生』『生』と注文されたら、今日は暑かったんやろなと思います」
そんな話を聞きながら、身も骨も柔らかな若鮎の軽やかな苦味、蓼酢の青い香り、ヱビスの深いコクを味わった。
続いて向かったのは、北大路「一品料理 伊セ藤」である。
店の入り口は、知らなければ見過ごしてしまうような細い通路の先にある。
緊張して扉を引くと、明るい声が出迎えてくれた。
声の主は店主で江藤敬子さんだ。警察官として14年務めたのちに料理人になった、異色の経歴を持つ。実家は、戦前の祖父の代から仕出し料理店「伊勢藤」を営んでいたので、その名を継いで、2009年に自身の店を開いた。
開業前には、裏千家家元に出入りを許される茶事出張料理の名店「辻留」で、16年にわたって腕を磨いた。
「修業なんてものじゃなく、お手伝いさせてもらっていただけです。師匠ご夫婦にはやさしくしていただき、多くのことを学ばせてもらいました」
そう謙遜されるも、料理が出てくるたび、その上品で上質な味わいにうなってしまう。
たとえば、夏の定番のとうもろこしのかき揚げ。衣はあくまでさっくり軽やかで、噛みしめると瑞々しくジューシーな甘さが弾け、衣の油気と混じり合う。
「ヱビスと最強の相性だと思います。油を使った料理や手軽につまめる料理とも合いますね。特に暑い時季はヱビスビールを求めるお客様が多くなります。樽生のおいしさはお店でしか味わえません」
豚の角煮は、見た目の何倍も柔らかい。ほどけるようである。
聞けば、豚肉をおからでゆがくこと1時間。そこから、だしと酒、黒糖、醤油でさらに1時間炊いていると言う。
「圧力鍋は使いません。師匠のやり方を見てきて、その通りにしているだけなんです」
冷たい炊き合わせは、見ているだけで涼を感じる器で供される。
だしのしみたなすに瑞々しく柔らかい冬瓜、控えめな甘さのかぼちゃ、鮮やかな色も美しい才巻海老。それらすべてを別々に炊いて冷やし、冷たい器の中で合わせている。
とりどりの時季の食材を生かしており、鮎の解禁期間には江藤さんの夫が釣る活けの鮎を、注文後に串を打って塩焼きで提供することもあるという。
気さくでアットホーム。店内はお客の会話や笑い声が絶えず、心地よいざわめきに包まれている。
「飲食店は、見知らぬ人が隣同士になる場所です。『伊セ藤』に、そのひと時を愉しんでくださるお客様が集ったらいいな、と思っています。カウンターの中からその様子を見させていただいている私が、一番幸せなのかもしれません」
気持ちいいなぁ。
懐石料理店のきりりとした雰囲気も、肩の力を抜ける風情も。
ヱビスとともに、京都の夜の空気にとっぷりとつかった。
菊乃井 露庵
【住所】京都府京都市下京区木屋町通四条下る斉藤町118
【電話番号】075‐361‐5580
【営業時間】11:30~13:30(最終入店) 17:00~19:30(最終入店)
【定休日】水曜
【アクセス】阪急「京都河原町駅」より1分
一品料理 伊セ藤
【住所】京都府京都市北区小山北大野町68‐5
【電話番号】075‐492‐0161
【営業時間】17:00~22:30(L.O.)
【定休日】日曜 第1・3月曜
【アクセス】地下鉄「北大路駅」より10分
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ストップ!20歳未満飲酒・飲酒運転。
文:長谷川ミヤ 写真:山出高士