新しい出会いが増える春。気の利いた料理とともにあってほしいビールといえば、やっぱり、クリーミーな泡をたたえた黄金色のヱビスである。もてなしの心に満ちた居酒屋で、さぁ、乾杯!
「日本酒の聖地」なんて言われ、根強いファンをもつ居酒屋「かんだ光壽(こうじゅ)」。
1995年の開業以来、蔵元と交流し続けて、現在ではオリジナルスペックの日本酒も多数扱う。瓶ビールすら置かないこの店で、唯一提供しているのが、ヱビス樽生である。それも、開業時からだ。さらには「絶品ヱビスの店」認定店である。
「絶品ヱビスの店」とは、ひときわ高品質なヱビスブランド樽生を提供している認定店のことで、クリーミーな泡、クリアなビール、コールドな温度を実現したヱビスを提供する。
店主の大野淳一さんはヱビスを選んだ理由をこう語る。
「日本酒の仕事を始める前は、僕はビール一辺倒で。僕自身がしっかり旨味があって奥行きが感じられるヱビスが好きだったんです。27年前、お店を始めた頃はヱビスを置いていること自体がお店のステイタスでもありました」
大半のお客が1杯目にヱビスビールを頼むと言う。
そこに登場するのが、名物とも言える“お通しプレート”だ。旬の野菜や魚介を盛り込むこと9種類と1椀。この日はスナップエンドウと菊芋のマリネに、ふぐ皮の煮こごり、新じゃがとホタルイカの煮ものなどに加え、そら豆のすり流しが登場した。
想像を上回る圧巻の品数と内容に、“飲み心”が刺激される。
「これだけで2杯はいけるね、とよく言われます」という大野さんの言葉通り、グラスの中はもう残りわずか。さっそくお代わりをお願いする。
聞けば、1杯目のみでなくヱビスビールを続けてお代わりしたり、日本酒を愉しむ合間に味わう人も多いと言う。
それも納得、続いて登場する理のどれもがヱビスビールに合うのだ。
それにしても、大野さんはなぜ、瓶ではなく〈樽生〉ひと筋で提供しているのだろうか。
「おいしいヱビスビールを出すことは、お酒を出すテクニックとも共通します。サーバーを衛生的に保ち、調整し、管理することはもちろん、グラスの手入れや注ぎ方も大事です。お客様においしいものを味わっていただきたいという想いが、提供のテクニックにつながるのです」
次に、東京駅の丸の内北口からすぐの「和食 えん」を訪ねた。
至便な立地にあり、ゆったりとした空間で個室も備える。
グループのルーツである和食居酒屋「えん」(現在の「和食・酒 えん」)の1号店が開店したのは、1996年のこと。低価格ばかりを謳う居酒屋と一線を画し、各店舗できちんとだしをとる料理を軸に展開してきた。そこからさらに旬の食材を厳選し、いっそう料理にも力を入れて展開しているのが「和食 えん」である。
コロナ禍以前は、時季のメニューを考案する料理長が、日本各地を回っては食材探しをしていたほど、食材選びに対する想いは強い。空間の造りや、器選びにもその想いは表れており、接待をはじめ、歓迎会やひさしぶりの集まりといったハレの場でも利用されることが多い。
料理長の小野治さんは言う。
「多店舗展開している店として、メニューはある程度固定のものもありますが、単なる“作業”にならずに、“つくる”ことを心がけています。刺身の盛りつけひとつとっても、そういった心持ちの違いが、印象や味わいの違いに表れます」
人気の“濃厚鰹出汁の出汁巻き玉子”は、注文を受けてから焼き上げる。ひと皿につき、濃厚な黄身の奥久慈卵を3個使い、鰹と昆布のだしをたっぷり含ませてふるふるに仕上げる。
ひと口分を箸で持ち上げると、だしがしたたり落ちるほどだ。
年末年始に続き、春はことに料理のおいしい居酒屋が忙しくなる時季である。
店長の小林理恵子さんはこう話す。
「お客様の多くは、『今日はちょっと豪華にいこうか』なんておっしゃいながらヱビスビールを注文されます。期待に応えられるよう、毎日ビールサーバーを洗浄し、きめ細かい泡を愉しんでいただくために注ぎ方にも気を配ります」
差し出された1杯は、トップにクリーミーな純白の泡をたたえ、ビールとの美しい黄金比は3対7。ふくよかな旨味とコクが広がり、すーっと喉を通って、後味は上品に消えていく。もうひと口を誘い、自然と料理にも箸がのびる。
肩ひじ張らずに仲間と団らんができて、「おいしく味わってもらえるように」と心を砕くヱビスを愉しめる居酒屋は、日常の延長線上にありながらも特別な時間を過ごせる場所。
「少し贅沢に」「この料理と合わせて」「もっと気分がよくなりたい」なんて、選ぶ理由はさまざまだけど、このかけがえのない時間とともに味わいたいのは、やっぱり旨味あふれる絶品のヱビスなのだ。
かんだ光壽(こうじゅ)
【住所】東京都千代田区鍛冶町2‐9‐7
【電話番号】03‐3253‐0044
【営業時間】17:30~22:30(L.O.) 土曜は~22:00(L.O.)
【定休日】日曜 祝日
【アクセス】JR・地下鉄「神田駅」より2分
和食 えん 丸の内オアゾ店
【住所】東京都千代田区丸の内1‐6‐4 丸の内オアゾ5F
【電話番号】03‐5223‐9896
【営業時間】11:00~14:30(L.O.) 17:00~22:30(L.O.) 土日祝は11:00~15:00(L.O.) 17:00~22:30(L.O.)
【定休日】無休
【アクセス】JR・地下鉄「東京駅」より1分
※お店のデータは通常営業時のものです。時節柄、酒類の提供や営業日時が変更されている場合があります。お出かけ前にご確認ください。
ストップ!20歳未満飲酒・飲酒運転。
文:長谷川ミヤ 写真:山出高士