昭和のうまい豚“中ヨークシャー”の血筋を引き肉の柔らかさ、脂肪融点の低さ、保水力、どれもトップクラス。脂肪のオレイン酸比率も高く、サシは多い。飼育に時間をかけ、徹底的に肉質にこだわった愛媛の豚。
品種の開発は2004年に始まった。「肉が柔らかく、ジューシーで、きめ細やかでうまい、甘い脂は人の体温で溶ける」そんな豚を作る試行錯誤は「成長が早く、低コストで出荷できる豚を作る」今の養豚ビジネスとは全く異質のものであった。
豚肉の質を決める要素は何と言っても血統。ついで餌と環境。“甘とろ豚”は全てにこだわりがある。
母豚はランドレースと大ヨークシャーの掛け合わせ。父豚は中ヨークシャー。「昭和の豚肉は甘くて、脂がさらっとして、うまさも洗練されていたな・・」と思う60歳以上の御仁が思い浮かべる豚こそ中ヨークシャー。成長が遅く、背脂が厚く、歩留まりが悪いため、一時は絶滅寸前まで減った美味な豚の血は、富士農場に残されていた。
新しいブランド豚の開発に際し、最も重要な肉質追求の結論が、中ヨークシャーのDNA選択となった。飼育の生産性は低いが、肉と脂の質は最高!を目指したのだ。
国内最高レベルの肉質を実現するため、低リジン飼料(サシを入れる)、魚粉不使用(臭みをなくす)、愛媛県産の裸麦を配合するなど、飼料の原材料と配合割合等に拘り、“甘とろ豚”専用飼料を開発した。肉質追求の代償は一般豚と比べて遅い発育。
一般豚の出荷日齢が約180日齢であるのに対し、“甘とろ豚”は約220日齢と長く、当然、その分の飼育手間もコストも掛かるが、じっくり育つ=最高の肉質に直結する。
成長に応じて、豚舎の広さを変えるが、“甘とろ豚”は小柄で成長が遅い上に、1頭あたりの占有面積が広いので、当然、ストレスが軽減され、それも肉質向上に繋がる。45kg以下の大きさでは1頭あたり0.25~0.35平米。45~71kgでは0.5~0.6平米。出荷に適した71kg以上では0.7~0.8平米。※農家によってはさらに広い。
豚の血筋を選び抜き、与える餌や豚舎の環境設定の研究をまじめに続ける愛媛県。「まじめにうまい豚」こそ、“愛媛甘とろ豚”。人の掌で溶ける脂は実にうまい!
文:(株)食文化 萩原章史