世界の○○~記憶に残る異国の一皿~
甘さ控えめの上品な韓国たい焼き|世界のあんこ④

甘さ控えめの上品な韓国たい焼き|世界のあんこ④

2022年3月号の第二特集テーマは「極上のあんこ」です。旅行作家の石田ゆうすけさんは、世界一周旅行の最後の国、韓国を訪れたときに忘れられないあんこ体験をしたといいます――。

怒涛のあんこラッシュ

あんこといえば、韓国の旅が思い出される。
ある田舎町でのことだ。道路脇に1台のバンがとまっていて、人だかりができていた。人々の頭ごしに店先をのぞいてみると、なんとたい焼きだ。
あとでわかったことだが、韓国では「プンオパン」と呼ぶらしい。「プンオ」は韓国語で鮒(ふな)のことだ。
このとき僕はほとんど反射的に「たい焼きの模倣だな」と考えた。だが韓国人が日本に行ってたい焼きを見ると、「プンオパンの模倣だ」と思うのかもしれない(後日、韓国人の友人に聞いたらそのとおりだった)。

どっちがルーツかはさておき、名前の違いがちょっと面白い。「ふな焼き」と聞いて、旨そうだと思う日本人はそんなにいないような......。
日本のたい焼きよりやや小ぶりで4個売りだという。味見したいだけだからそんなにいらないよ、と思ったが、4個で1000ウォン(当時約100円)と聞いて膝がカクンとなり、安さに小躍りしながら代金を払った。4個のプンオパンは紙袋に入って手渡された。熱が紙袋を通して手に伝わってくる。

食べてみると、日本のたい焼きとほとんど変わらなかったが、あんこが尻尾まで入っておらず、甘さは控えめだ。甘すぎるあんこが苦手なのでありがたい。何より熱々なのがよかった。10月下旬なのに朝晩は氷点下になっていた。そんな寒空の下を走ったあと、ホカホカの紙袋を抱え、あんこから湯気の立つたい焼き、いや、ふな焼きをかじっていると、凍えた体が外からも中からも温められるようだった。結局4個すべてをぺろりと平らげた。

翌朝、走っているとまたもやバンの屋台があり、今度は肉まんが売られていた。ちょうどいい。これを朝食にしよう。そう思って2個買ったのだが、かじった途端、首を垂れた。肉まんではなくあんまんだったのだ。昨日調子にのってふな焼きを4個も食べただけに、あんこの味にちょっとつらいものを覚えた。それでも熱いうちに食べておこうと口に押しこむように無理やりあんまん2個を全部食べたら胸が悪くなってきた。

それからしばらく走って町に着き、商店で4個入りのドーナツを買った。かじった途端、ブッと吹き出しそうになった。あんドーナツではないか。なんで行く先々であんこが待ち受けているんだ!
うんざりしながら半分ヤケクソになって2個食べると本気で気持ち悪くなってきた。

夕方、たこ焼きの屋台を見つけ、舞い上がった。日本を離れて以来7年ぶりのたこ焼きだったのだ。しかもあんこ系のお菓子ばかり食べてきた今の僕にとって、ソース味のたこ焼きほどそそられるものはなかった。たこ焼きバカ食いという昇天の図を想像しながら大量に注文する。店主は紙袋にそれを入れて手渡してきた。......紙袋?
開けて中を見ると、ソースがかかっていない。生地に味がついているのだろうか。
ふいに嫌な予感がし、おそるおそるかじる。
「.........」
この韓国が自転車世界一周旅行の最後の国だった。日本まであと2日だ。大量にあまった韓国の"あんこたこ焼き"を友人たちへのお土産にするのもいいかもしれない。

文・写真:石田ゆうすけ

石田 ゆうすけ

石田 ゆうすけ (旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。