ある時期、放送局の近くということもあり、通い詰めた大阪のカレー店があったという松尾貴史さん。この度、久しぶりに食べたカレーは、昔と変わらず「大阪ならでは」の味わいでした――。
大阪の福島駅から、歩いて「なにわ筋」を北上すると4、5分で、右側に「上等カレー本店」が見つかる。ここにうかがうのはすこぶる久しぶりだった。以前は駅のこちら側に朝日放送とホテルプラザがあり、ふらりと立ち寄るには便利なところで、多くの店が11時30分に営業を開始しているこの地域で11時ちょうどから開けてくれるのが、私の生活サイクルにとっても好都合だった。
しかし、ホテルプラザは閉館(ここが出していた缶詰「プラザの味」シリーズのカレーが素晴らしく美味かったのが未だに惜しまれる)、朝日放送は中之島方面に移転してしまったので、この本店に来ることもめっきり少なくなってしまった。
自動券売機で食券を購入、とんかつカレー(千円)をお願いした。注文から揚げ始めるのだが、それほど待つことはない。メインの皿が届く前に、卵黄が置かれる。カウンター上には色の薄めの福神漬けとラッキョウの甘酢漬けの壺、カイエンヌペッパーの容器が置かれている。味は、なるほどの大阪ならでは、第一印象が甘く、後からほんのりと辛味が追いかけてくる。ルーは少し粘度があるのでライスに程よく乗せる事ができる感触だ。
一口食べて懐かしさを感じ、添えられているキャベツのピクルスを箸休めならぬ匙休めにつまみ、すでに2列に包丁が入れられているとんかつをスプーンで皿に押さえれば、簡単に切る事が出来る。卵黄を好みのタイミングで乗せ、スプーンのエッジでときほぐす。揚げたてのとんかつの香ばしさと、懐かしい大阪カレーのルーが掛け合い、郷愁のほの甘さ。そこにカイエンヌペッパーを追いがけして辛さを強めて、ほんのりひと汗をかけていただく。あちらこちらに同じ店名を見かけるが、経営は独立した暖簾分けなのだろうか。味の雰囲気や値段が違っているのはそのためかもしれない。
そして、東京にも「渋谷本店」がある。皿の形は同じだが、プリントされた店名は書体が違うようだ。色々と想像を巡らせる楽しみ方もあるのかもしれない。
文・撮影:松尾貴史