松尾貴史のカレードスコープ
富士山のおひざ元で見つけた名店|松尾貴史のカレードスコープ㉖

富士山のおひざ元で見つけた名店|松尾貴史のカレードスコープ㉖

富士市に公演のため訪れた松尾貴史さんは、驚くほど美味しいスパイスカレー店を見つけました。雄大な富士山を眺めながら食べるカレーの味わいとは――。

客を自然と引き寄せる居心地の良い店

芝居の公演で富士市文化会館ロゼシアターに赴いて、本番までの空き時間にうかがったのだが、これが大当たりの名店だった。
スパイスカレー「ダーテラー」は、雄大な富士山が見える場所にある。
文化会館から目の前の青葉通りを緩やかに下り、市役所の前を通り過ぎた先を入ったところに、その店はある。場所としては、偶然通りかかって見つけるようなところではないので、そこでお客さんを引き寄せるのは、やはり強者なのだろうと想像したが、ご夫婦と思しき平和な感じのお二人で、アットホームな雰囲気で営業なさっている。カウンターに8席ほどの店内、小ぶりで落ち着いた雰囲気が居心地いい。
メニューにはカレーが3種類、この日はチキン、ポーク、担々キーマの3種類で、あいがけや全部乗せのスペシャルもあり、初回で、東京住まいではなかなか足を運べる場所ではないので、迷わず全部乗せを選択した。

メニュー

チキンカレーにはフェネグリークの乾燥ハーブが散りばめられていて、甘く爽やかな香りを広げてくれている。
中央のターメリックライスが、すこぶる綺麗な薄いレモンイエローで見た目にも爽やか。全部乗せには味付けスパイス茹で玉子が添えられる。黄身が絶妙な塩梅で、幸せな気分だ。
カレーの辛さは絶妙のほどの良さで、カウンターには辛口が好きな人のためだろう、カイエンヌペッパーが置かれている。このちょっとした気遣いが嬉しい。最近は、ラーメン店でも「これが理想形なのだ」とばかりに胡椒も酢も何も置いていない(紙ナプキンすら!)というところがあるけれど、個人的にはこっそりとしょんぼりしてしまっている。

カレー

さて、店名の「ダーテラー」とは、「絶景」を意味するサンスクリット語で、目の前の富士山にちなんで……などと勝手な妄想をしていたが、調べてみるとご主人のお名前が寺田さんで、ジャズマンの業界用語風に順番を入れ替えたらしい。
そして、カレーに夢中になって、店内から富士山が見えるかどうかを確認し忘れてしまった。またロゼシアターで芝居をやる機会が待ち遠しい。いや、単に来ればいいのだけれど。

外観

店舗情報店舗情報

ダーテラー
  • 【住所】静岡県富士市依田原新田103‐6
  • 【電話番号】0545‐50‐1906
  • 【営業時間】11:30~14:00(L.O.) 17:30~19:30(L.O.) 日曜は昼のみ
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】岳南電車岳南線「吉原本町駅」より15分

文・撮影:松尾貴史

松尾 貴史

松尾 貴史 (俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト)

1960年5月11日生まれ。神戸市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。 俳優、タレント、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広く活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(パンニャ)店主。著書に『人は違和感が9割』、『違和感ワンダーランド』、『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)等がある。