その怪魚は毒を持ち、多くの釣人にとっては厄介者だという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
全長10~20cmの細長い体型で、まるで海のドジョウである。茶褐色の地に頭部から尾部にかけて2本の鮮やかな黄色の線が走っており、これが幼魚ほど鮮明だ。別名は「ギギ」。本州から沖縄の海に生息している。群れる習性があり、岩礁や防波堤の近くでウヨウヨと団子状で行動し、お互いのコミュニケーションをとっている。この団子状態は「ごんずい玉」と呼ばれている。
小さい魚だが油断ならないのは背ビレと左右の胸ビレに毒を持ち、これに刺されると激痛に見舞われることだ。夜の防波堤で小アジ釣りをしていて、このゴンズイが針がかりすると大事件勃発になりかねない。誤ってこのヒレにさわってしまえば、その痛さで泣く泣く釣りを中止することになる。この毒はゴンズイが死んでもなくならないから、釣り人が捨てたゴンズイにもよほど用心したい。踏んづけたりもしないことだ。また、料理の際にはまずヒレを除いてからとりかかりたい。なお体表を覆うぬめりにも毒があるのか、傷口にはいりこむと痛みを生じることがある。
こんなゴンズイだから漁業で狙うはずもなく、流通することもない。防波堤釣りで針がかりするとほとんどの釣り人はハリスを切って海に放つ。群れる習性だから釣れるときはやたら釣れ続けるので始末に悪い。ところがグルメな釣り人はこれが釣れるとヒレに注意しながらもいそいそと持ち帰っている。ベテランになるとその場でヒレと内臓を取り除いて海水に漬けて血抜きをしてから持ち帰る。こうしておくと断然おいしい料理に仕上がるからだ。
味噌汁がうまく、てんぷらや蒲焼きも悪くない。煮魚もいける。料理が面倒だけど大きいものは刺身もうまい。いずれの料理でも淡泊ながらほどよく脂がのる上品な白身をじっくりと味わえる。天ぷらはハゼやメゴチに並ぶか、それ以上という人もいる。淡泊な白身が油と相まっておいしさを増し、ホクホクとした食感で思っていた以上にボリューム感がある。皮と身の間にウナギに似たうま味があるのもうれしい。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏