松尾貴史のカレードスコープ
同志が営む安心の「海軍カレー」|松尾貴史のカレードスコープ㉓

同志が営む安心の「海軍カレー」|松尾貴史のカレードスコープ㉓

「日本風カレー」の中でもオーソドックスな味わいが人気な海軍カレー。その名店として知られる「横須賀海軍カレー本舗」の店長は、松尾貴史さんと盟友だったようで――。

「変わらぬ味」にほっとする

日本に初めて「カレー」という料理が紹介されたのは、今から160年以上前、1860年に出版された、福沢諭吉の『増訂華英通語』という書物の中に「コルリ」という呼称で掲載された時だという。その後、調理法ではアカガエルを用いるという、今からは想像しにくいものも紹介されたようだ。
時代は下った1905年、大阪の薬問屋が初めて国産のカレー粉を製造販売し、それ以来次々と日本人がカレーに親しむ下地ができていったようだ。陸軍や海軍でも、カレーは重宝な存在となったようで、おそらくは大勢で短時間に食べられ場所を取らず、食器は皿一枚とスプーンのみという簡潔さが功を奏したのだろう。兵役を終えて日本全国の地元に戻った者たちが、軍隊を懐かしんで地元で再現して食べたことが、カレーが日本の国民食に成長した理由の一つだとも言われている。

かわら版

さて、横須賀といえば海軍の町である。高台から眺めればかつての軍港の雰囲気を今も色濃く残している。街の一角にある「横須賀海軍カレー本舗」は、数ある「横須賀海軍カレー」を提供する店の中でも筆頭で、ランチ時には大勢のカレー好きで賑わう。1999年、町おこしの一環として「カレーの街よこすか推進委員会」が発足して活動を始め、今や全国的にも「ご当地カレーといえば」と問えば、ここのカレーを挙げる人が多い。横須賀に来ればカレーを食べねばと、半ばセレモニー化しているのだが、サラダと牛乳、食後のコーヒーなどのセットをいただいて横須賀気分は満喫だ。本当は、ブランデーとジンジャエールを合わせたカクテル、近年の名物「ブラジャー」もいただきたいところだが、車で訪れたので次の機会に取っておくことにする。

カレー

ビーフのスペシャル、辛口大盛りをいただくことにした。古いレシピをもとにしているので、当然昨今のスパイスブレンド的エッジは立っていないが、これぞ日本の伝統的咖哩だということを感じさせてくれる。ここの店長とは、カレー研究家の一条もんこさん、大手のスパイスメーカーの開発担当者、東京の有名カレー店のスタッフらと、インド・ニューデリーにある料理学校で少人数の短期留学を共にした。かけ足だったが、スパイスの使い方やタンドリー窯、ビリヤニの製造法を学ばせていただいた同志なのだ。この日は別の店舗におられるとのことで再会は叶わなかった。いつ訪れても「ここに行けばこの味が」という郷愁、安心感は、いつまでも残していただきたいものだ。

外観

店舗情報店舗情報

横須賀海軍カレー本舗
  • 【住所】神奈川県横須賀市若松町1‐11‐8
  • 【電話番号】046‐829‐1221
  • 【営業時間】11:00~15:30(L.O.) 土日祝日は~19:30(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】京浜急行本線「横須賀中央駅」より3分

文・撮影:松尾貴史

松尾 貴史

松尾 貴史 (俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト)

1960年5月11日生まれ。神戸市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。 俳優、タレント、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広く活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(パンニャ)店主。著書に『人は違和感が9割』、『違和感ワンダーランド』、『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)等がある。