千葉市緑区土気(とけ)の田んぼで、酒米・山田錦を育てている“農家酒屋”SakeBase。本格的に稲作に取り組んで2年目の今年も、実りの季節を迎えました。
酒屋として単に仕入れた日本酒を売るだけでなく、「自分たちで育てた米でオリジナルの酒を醸す」という取り組みを昨年から柱に据えているSakeBase。自ら稲作に取り組むことで、「日本の原点である田んぼの風景を残したい」との思いもある。田植えや稲の生育の様子は、この連載の第4回~6回でもお伝えしたが、順調に育った稲は夏に出穂(しゅっすい)、受粉し、9月に収穫を迎えた。
ここ、土気の小山谷津(おやまやつ)地域の田んぼは4月中旬に順次、手植えの田植えを行ない、7月下旬に出穂が始まった。
稲が成長する過程で、緑色の茎の中で籾の集合体である「穂」が育まれ、それが上部に姿を表わすのが「出穂」。それまで、緑の「草」の集合体のように見えた田んぼが、出穂によっていきなり「米」を連想させる姿に変わる、ドラマチックな節目である。出穂するとすぐに白く小さな花がつき、雄しべの花粉が雌しべについて受粉する。可憐な稲の花は、晴れた日の午前中数時間しか見られないという貴重な姿だ。
SakeBaseが稲作を始めたのは3年前から。初年度の2019年はまず山田錦の無農薬の種籾(たねもみ)を取るための試験栽培で、2020年から本格栽培を始めた。今年の稲の生育は「すごく順調」なのだという。
「今年は日照時間が長く、晴れの日が多くて草取りなどに手がかけられました。また、苗床を去年より1ヶ月早く、3月後半から作り始めたことで、梅雨の影響を受けにくく丈夫な苗に育ちました」(代表の宍戸涼太郎さん)。
無農薬栽培で大変といわれるのは、雑草と害虫対策。
「新型コロナウィルスの影響で、店での角打ち(立ち飲み)を自粛しなければならなかった期間があり、結果的に今年は田んぼのメンテナンスに時間と手間をかけることができました」と宍戸さん。
日々の地道な雑草取りのほか、乳酸菌を土壌に蒔いて雑草の発芽を抑えたり、稲を狙う害虫に対しては、唐辛子スプレーの散布などいくつか手を打っている。
また、カメムシは「クサネム」という雑草の花や実を吸う習性があるため、今年は敢えて、クサネムの除草を全部行なわずに、点在するように田んぼに残した。"クサネムにカメムシを集中させる作戦"だ。これは今年春に栃木県の農家さんの講義で学んだことだという。効果は上々だった。
そして9月下旬、先に田植えをした小山谷津地域からまず稲刈りが始まった。こちらは耕作放棄地だった田んぼが何枚も点在しており、コンバインなどの機械が入りにくい立地のため、すべて手刈りでの収穫だ。その様子は、次回に詳しくお伝えしたい。
写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)