松尾貴史のカレードスコープ
壱岐島の「気変わりカレー」|松尾貴史のカレードスコープ⑮

壱岐島の「気変わりカレー」|松尾貴史のカレードスコープ⑮

番組の撮影で長崎県の離島を訪れた松尾貴史さん。そこでも欠かさずカレー屋探しにでたところ、素敵な出会いがありました。

自由なカレーと自由な時間

旅チャンネル「離島酒場」の撮影で長崎県の壱岐を訪れた。九州と朝鮮半島に挟まれたこの地は、大昔から大陸文化との交流も盛んだったようで、近年もコロナ禍に陥るまでは韓国からの観光客でたいそう賑わっていた。ここと隣の対馬の街なかには、結構な割合でハングル文字の表記が目立つのだが、今は島中が静かな我慢を強いられているようだ。
混雑する状況ではなくなっているので、のんびりと飲み歩くには快適な……、いや、酒場ではなくカレーを探さねばならないのだ。
島で唯一のクラフトビールバー「アイランド・ブリュワリー」で数杯飲み干して、次のロケ現場まで数時間空いているというので、いい気分のままに歩き出した。スピードが制御できなくなったメリーゴーラウンドのように高速回転するスルメイカの干し機に感動しつつ、昼間の間は休んでいるイカ釣り漁船を横目に長閑な海沿いの道を散歩するうち、「チリトリ」という店名が爽やかな青と白で爽やかに書かれた暖簾が目に入った。脇の小さな立て看板には「スパイスカレーとコーヒーといい時間の店」とある。

松尾さん

昨今の離島を侮ってはいけない、こんな出会いがあるではないか!正式名称は「CHIRITORI自由食堂」というらしい。メニューにある、「日替わり」ならぬ「気変わりカレー」も、きっと自由に作っているのだろうからすこぶる食指が動いたけれど、気が変わって名物の「鯵ミールカリー」をいただくことにした。きっと「カシミール」をもじっているのだとは思う。辛いカシミール風の鯵カリーなのだろう。気変わりは「カレー」だが、鯵ミールでは「カリー」になっている。同じ店で両方の呼び方を使っているのは珍しいが、わざとなのか、うっかりなのだろうか。 素晴らしく爽やかな辛さで、グレイビーもさらりとしていて私好みだ。

カレー

「気のいい辛口」といった雰囲気だろうか。鯵は出汁として参加しているようで、物体としてはチキンカレーだったが、鯵と鶏が素敵なセッションをしている。大当たりだった。離島では、なかなかに美味いカレーを探すことは難しいのではないかという先入観は捨てたほうがいいのかもしれない。
次は絶対に気変わりカレーを食べよう。また気が変わるかもしれないが。

外観

店舗情報店舗情報

CHILITOLI 自由食堂
  • 【住所】長崎県壱岐市芦辺町芦辺浦62
  • 【電話番号】0920‐40‐0107
  • 【営業時間】11:30~16:00 (L.O.)
  • 【定休日】火曜日、水曜日
  • 【アクセス】芦辺港より車で5分

文・写真:松尾貴史

松尾 貴史

松尾 貴史 (俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト)

1960年5月11日生まれ。神戸市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。 俳優、タレント、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広く活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(パンニャ)店主。著書に『人は違和感が9割』、『違和感ワンダーランド』、『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)等がある。