農家酒屋「SakeBase」の一年 ~田んぼの開墾から酒造りを始める酒屋~
「オーク樽での日本酒熟成」という新たな試み

「オーク樽での日本酒熟成」という新たな試み

耕作放棄地を田んぼに戻し、そこで自ら育てた山田錦をオリジナル酒にするなど、酒販店としてはこれまで例のない仕事を貫いているSakeBase。今年6月からは、アメリカより仕入れたバーボンのオーク樽で日本酒を熟成させる、という新たな試みにチャレンジしている。なぜオーク樽熟成にチャレンジしようと思ったのだろうか。今回は、この新しい試みを紹介したい。

新設した「ラボ」に、バーボン樽を設置

「酒屋としての、日本酒との関わり」を考えて

SakeBaseが今年5月末からチャレンジを始めた事業。それは、自社での「日本酒の熟成」だ。店舗から徒歩3分の場所に新たにビルの一室を借りて、「SakeBaseラボ」と命名。バーボンの熟成に使われていた200L詰めのオーク樽を2基、アメリカから輸入し、蔵元から購入したお酒を詰めて一定期間熟成させて香りもつけ、世に出すという試みである。


5月24日、月曜定休を返上してSakeBaseの3人、宍戸(ししど)涼太郎さん、土屋杏平さん、石井叡(あきら)さんが朝からラボに集い、お酒を樽に入れる作業をおこなった。初回に詰めるお酒は、奈良県・油長(ゆうちょう)酒造の「鷹長」と、栃木県・せんきんの「仙禽 オーガニックナチュール」。前者は、室町時代に生まれた酒造法「菩提酛(ぼだいもと)」で造られたもの、後者は、オーガニックで育てた亀の尾米を生酛(きもと)、酵母無添加で醸したもの。どちらも、日本酒ファンに広く深く支持される銘酒だ。これまでのSakeBase3人の経験知の中から、オーク樽熟成に向くと考えた2種のお酒を選んで熟成させることにした。双方とも、蔵元には直接相談し、快諾の返事をもらった上での実現である。

当日の朝ラボに着くと、「3人のうちでいちばん器用」と言われる土屋さんが懸命に、樽の栓の脇にコンコンコンとノミを入れて、まず栓を外す作業に没頭していた。そうなのだ、初めてのことで、すべてが未体験なのだ。

樽詰め
片方の樽には、奈良の「鷹長」を詰める。樽に詰めやすいようにと、油長酒造が特別に用意してくれた容器から酒を注入。
樽詰め
もう一方には、栃木・せんきんの「オーガニックナチュール」を。こちらは4合瓶から樽に入れた(ともに写真・編集部)。

樽熟成を始めた主な動機は二つある。SakeBase代表の宍戸涼太郎さんがこれまで巡ってきた全国300の蔵には、たびたび、蔵の中でオーク樽に詰めて熟成させているお酒を見かけた。親しくなるとそれをテイスティングさせてもらう機会もあり、未体験のそのおいしさに驚いた。しかし、樽の大きさには限りがあるし、伝統産業である日本酒蔵元がオーク樽熟成を表出させることへの蔵側のためらいなどもあって、ほとんど商品化には至っていないという。


「なんとか、樽熟成させた日本酒のおいしさを世の中の方々に伝えたいと考えているうちに、自分たちで樽熟成させることを思いついたんです。伝統ある酒蔵は商品化に踏み出せないとしても、歴史のないベンチャーの自分たちだったら、取り組みやすい課題なんじゃないかと考えました」と代表の宍戸さん。これが一つめの理由だ。

熟成所
店舗から徒歩3分の場所に熟成所を新設。「ラボ」と名付けた。左から、土屋杏平さん、宍戸涼太郎さん、石井叡(あきら)さん。宍戸さんと石井さんは田んぼで虫に刺され、この日は目が腫れている状態。(写真・編集部)
熟成冷蔵室
熟成冷蔵室には窓をつけた。店の前を通る人にも、興味を持ってもらいたいからだ。樽はまだ今は2基だが、これから増やしていく予定だ。

もう一つの理由は、昨年からのコロナ禍。それまでおこなってきた店での角打ち(立ち飲み営業)を始め、月1回の蔵元を招いての店舗イベントや月末2日間の津田沼での出張イベントなどの開催を軒並み中止せざるを得ず、「日本酒を愛する方々との直(じか)のコミュニケーション」の機会が著しく減って、酒屋としての在り方について悩む機会が増えた。「社会全体のワクワク感が減っている」ことも肌で感じた。
そして、「蔵元さんから仕入れた酒をただ売るだけ」というだけでなく、SakeBaseが酒屋として日本酒にどう関わることができるか、SakeBaseだからこその酒屋商売とは何か、徹底的に考え抜いた上で、熟成という手を実行しようと思うに至ったのだ。
「酒屋が熟成させることでの酒の“再編集”、そのワクワク感を多くのお客さんと共有したい」(土屋さん)、「正確な温度管理のもとに、オーク樽熟成という新たなエッセンスを加えた“新しい日本酒づくり”に関われて嬉しいかぎり」(石井さん)と、全員アクセル全開だ。

ロゴアップリケ
ラボの暖簾に入れたSakeBaseのロゴアップリケは、メンバー土屋たか子さんのおかあさん、土屋●●さんの手製。右肩上がりをイメージしたロゴだ。
シンボルロゴ
SakeBaseのシンボルロゴも、土屋たか子さんの手による。冴えた赤字に、妖しい笑顔が光っている。

初回にオーク樽に仕込んだお酒は、Makuakeでのクラウドファンディングで6月21日から受付をスタート。「鷹長・仙禽オーク樽熟満喫セット(720ml各1本、SakeBaseオリジナルお猪口、店舗での角打ちコイン10枚付きで1万1000円)」など2コースあり、7月中旬には無事に190人のサポーターを得て目標額を達成し、募集を打ち切った。
オーク樽での熟成の様子は、今後も時を追ってお伝えしていきたい。

ノート
お酒を樽に初入れした日、ラボのテーブルには土屋さんの几帳面な字のノートが。これからどんな経過が書かれていくのだろう。
ラボ外観
ラボの売り口はガラス貼りで、熟成室の樽まで道路から見えるようになっている。両脇には、「風の森」「仙禽」それぞれの樽が鎮座。

店舗情報店舗情報

SakeBase
  • 【住所】千葉県千葉市稲毛区緑町1‐24‐2(新店舗)
  • 【電話番号】04-3356-5217
  • 【営業時間】12:00~21:00(角打ちは17:00~)
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】JR総武線「西千葉駅」南口より6分

写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)