2019年に耕作放棄地の開墾から始めたSakeBaseの稲作。昨年までは、千葉市緑区土気(とけ)地区の小山谷津(おやまやつ)地域の田んぼのみだったが、今年からは車で15分ほど離れた越智(おち)町でも米作りをすることになった。一昨年まで現役だった田んぼでの、耕運機、田植え機などの機械も使っての農業。新たな田んぼと機械類を得たことで、目標の「タンク一本丸ごと自作米でのオリジナル酒」に一歩近づいた。今回は、この新しい越智の田んぼを紹介しよう。
これまで小山谷津地域で、オリジナル酒の原料として酒米の山田錦を栽培してきたSakeBase。稲作をスタートした2019年は田んぼを貸してもらうことは叶わず、まずは30年も耕作放棄されていた土地を借り、開墾や整地からたいへんな苦労をして昨年度、約400kgの山田錦の収穫に至った。稲作そのものよりも、その前段階の「田んぼに戻す作業」に労力の大半を使った格好だ。
しかし、当初は見慣れぬ若者が地域に出入りする様子に戸惑ったり訝(いぶか)しんだりしていた地元の人たちも、毎日欠かさず通って明るく挨拶を交わし、農作業に邁進する彼らの真摯さが伝わって、徐々に心を開いてくれるようになった。「若者の気まぐれ」ではなく、「真剣に農業に取り組む姿勢」が伝わったのだ。
だが、小山谷津地区の田んぼは一枚一枚が小さく、イレギュラーなぬかるみも多く、機械を使った農業は難しい。手作業がほとんどになるので、必然的に収穫量には限りがある。そんな中、農業委員会の職員さんが今年3月に紹介してくれたのが、高齢化のため引退した越智町の農家の田んぼだった。
「小山谷津」という地名通りに小さな山や谷があるこれまでの田んぼとは違い、ここ越智地域の田んぼは広く開けていて見晴らしがいい。稲作に欠かせない水は、小山谷津地域では、山から流れる水を貯める池をまず作り、そこから田んぼに流す水路や、排水ルートも自分たちで作った。しかし、越智地域にはきちんと水利組合があり、村田川の水を活用するルートが整備されている。
こちらの田んぼも、山田錦は無農薬、無肥料栽培だ。昨年度は精米歩合80%で仕込んだSakeBaseオリジナル酒は、今年はより米のパワーを生かすべく85%精米で仕込むことが、醸造を委託する油長酒造(奈良県)との間で約束されている。
「小山谷津は土が固くて、水の便も悪いし、毎日メチャクチャ格闘していました。整備されたこちらの田んぼは、肉体的疲労という点では段違いです」(Sake Base代表の宍戸涼太郎さん)。決して楽をしたいわけではない。しかし総勢3人という限られた人数で、千葉市稲毛区の店舗運営と農作業を行ない、どちらも十分な成果をあげるのは、時間的体力的にも限界がある。今年度の目標である「タンク1本分の原料米調達」や、来年以降のSakeBaseの取り組みにとって、この越智地域の田んぼとの出会いは願ってもないことだった。
越智地域で借りている田んぼのうち、今年は田植えが行われず、茶色い土の部分がある。「ここで来年、新しい取り組みをしようと考えています」(宍戸さん)。
しかし、芝を刈って耕運して……という作業は来年を待たず、今年から行なっている。「ここをもう一度耕耘して、さらに柔らかい土にします」。この田んぼは0.38ha。すでに、来年2022年の稲作、そして2023年の酒造りへの取り組みがスタートしているのだ。
写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)