怪魚の食卓
8つの目を持つうなぎ!?|怪魚の食卓64

8つの目を持つうなぎ!?|怪魚の食卓64

その怪魚は、うなぎのようなルックスで、動物のモツのような味わいがするのだという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

独特の食味「カワヤツメ」

ヤツメウナギとも呼ばれる。うなぎのように長く、8つの目を持つからだ。だが「目」とはいっても、側面片側のひとつは本物の目であとの7つはエラ穴をさす。そして口が吸盤になっていて、石や餌となる魚に吸い付く。

円口類という分類に属し、以前ご紹介したヌタウナギのように顎がなくて「生きた化石」といわれる原始的な脊椎動物である。生態はうなぎに似ていて海洋で生活したあとの成魚が川をさかのぼって産卵する。その遡上期に漁獲する。多くの土地で茅(かや)や鉄網、プラスチックで作った「どう」と呼ぶ筒状の伝統漁具で捕獲する。カワヤツメがこれに入ると二度と出られない仕掛けになっている。

国内では主に関東北陸以北の河川で漁獲される。特に北海道の石狩川や尻別川のほか新潟県、山形県、秋田県などの日本海に流れる河川で捕獲され、こうした土地では古くから食用にされてきた。秋田県の「かやき」ではホタテの大きな殻を鍋代わりにして濃いめのすき焼き風醤油味でぶつ切りのカワヤツメを長ネギなどと煮込む。山形県では濃いめの味噌汁にぶつ切りを利用するし、蒲焼きや煮つけ、漬け焼きなどの料理法で食べられている。

味噌煮は各産地でよく見られる料理法だ。ほかの多くのカワヤツメ料理同様に内臓そのままのぶつ切りを利用する。骨は軟骨なのでコリコリとした歯ごたえを楽しめる。内臓も皮も身も牛や豚のモツに似た食感があり、その噛み心地には誰もが思わず微笑んでしまうだろう。

匂いもまた魚よりもむしろ牛や豚の身や内臓に似ている。味も牛や豚のレバーと魚の赤身部分が合わさったようでなんとも不思議な感覚にとらわれる。こんな風味だから一度食べればまず忘れられない。ただ好き嫌いがはっきりと分かれるだろう。ちなみにヨーロッパ各地でも古くから食され、フランスのボルドー地方には赤ワインで煮込んだ「カワヤツメのボルドー風」という名物料理が人気を呼んでいる。カワヤツメはビタミンAの含有量がきわめて多く漢方薬や乾燥させた粉末などが滋養剤として流通している。カワヤツメ料理でもその効果が期待される。

カワヤツメの味噌煮
①産地でぶつ切りのカワヤツメを手に入れざっと水洗いする。
②鍋の水に煮干しを入れて火にかけてだしをとり、味噌を溶き入れる。
③1を加えてささがきか斜め薄切りのゴボウ、豆腐、長ネギの順に加えて煮る。
カワヤツメの味噌煮

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏