7月6日発売のdancyu8月号「スパイスとカレー。2021」で登場したshiibo(シイボ)さんは、黒褐色のダークトーンの奥で、静謐な光を放つ器を造る陶芸作家。それらはすベて、他ならぬ「インド料理のための器」としてつくられたものだといいます。料理ありきで手がけられた作品は料理と出会ってこそ輝き、まさに美しき道具と呼びたくなる。その創作の向こう側を知るべく、京都のアトリエを訪ねました。ぜひ本誌掲載の記事と合わせてお楽しみください。そして、shiiboさんがつくった「ユニークなライス型」を抽選で3名様にプレゼント!ご応募方法は記事の最後にて。
「私の原点は、器じゃなくてインド料理なんです」。そう話すshiiboさんとインド料理との出会いは、彼女が高校2年のときに遡る。大阪のインド料理店でのアルバイトを通して、「それまで食にほとんど興味はなかったのに、全部の料理がおいしく感じられて」夢中になった。店で出される賄いを日々楽しみ、さらにはインドを旅して現地のリアルな味に触れ、インド料理愛を深めていく。そして大学に進むと陶芸を専攻。と聞けば、すんなりと「料理と器」のストーリーがつながるように思えるが、卒業してからはすっかり作陶から遠ざかっていた。「20代の終わり頃、会社員を辞めてひと息ついたとき、また陶芸をやりたいなと思ったんです」。
陶芸と同時に、インド料理への情熱も再燃していたshiiboさん。あるとき、イベントでカレーを提供する機会があり、まとまった数の食器が必要になった。最初に考えたのは、現地仕様のステンレスの器。しかし「買わなくても、あれと同じようなものを自分で作れるんじゃないか」と直感し、ターリーの大皿とカトリ(カップ状の小皿)を制作してしまった。現在のコンセプトの器が誕生した瞬間だった。
shiiboさんの器はロクロ挽きでなく、板状の粘土を型で成形する「たたら作り」や石膏型に液状の粘土を流し込んで固める「鋳込み」でつくられる。「工業製品みたいに、形がカチッと揃ってるのが好きなんです」。陶芸を再開してから、集中的に技術を磨くため、素焼きの器をつくる下請けの仕事を3年ほど続けていたというshiiboさん。ストイックに何千個と数をこなした経験が、今の作品の精度につながっている。さらに、二酸化マンガンを含んだ釉薬も特徴。焼成するとアイアンのような銀のような、独特のメタリック感を見せる。「形は均一に揃えたいけど、風合いはひとつひとつ個性を出したいから」釉薬は刷毛塗り。時間も手間もかかるが、刷毛の勢いや重ね方がムラになり、二つとない持ち味が生まれるのだ。ニュアンスのある黒が、スパイスの赤や黄をまとったインド料理を引き締め、実に食欲をそそる。
黒い器は好評を博したが、陶芸だけで生きていくには心もとないからと“原点”であるインド料理にも全力で取り組んだ。料理教室を主宰したり、イベントに参加することで「インド料理研究家」の顔を確立していく。作陶活動が忙しさを増す数年前までは、毎日インド料理をつくっていたshiiboさん。最近は頻度こそ少なくなったものの、ひとたび取りかかったらおよそ60リットルものカレーを仕込むのが普通だとか。器以前に料理のつくり手であるというバックボーンは、徐々に料理人たちの共鳴を呼ぶ。
見た目より薄く軽く使い心地よく、何より料理が映える器。定番のターリー皿以外にもバリエーションは豊富で、幅広い好みや用途に対応できるのも強みだ。今や東京・千歳船橋「Kalpasi」、同・豪徳寺「OLD NEPAL」、京都「ナチュレミアン」といった人気店からのオーダーが絶えない。「こんな器は他にないよ、と言われるとやっぱり嬉しくて。私自身、自分の器が好きすぎて、繰り返し使いたくなります」と笑う。Shiiboさんにとって、器は買うものでなくつくるもの。手持ちの器はほぼすべて自分の作品だ。しかし、陶芸というジャンルは必然ではないとも。「彫刻を学んでいたら木を彫って、彫金なら真鍮を叩いて、インド料理のための器をつくっていたと思います」。
ところで、shiiboさんにはもうひとつのライフワークがある。上の写真(右)のターリー皿にも鎮座している「歯」である。19歳で歯にハマって矯正を始め、歯科医院や歯科関係のメーカー勤務を経験。歯科医師を目指して予備校に通っていた時期もあるというから相当想いが熱い。「歯は完全に趣味。器づくりを頑張ったら“歯のかたち”のなにかをつくろう、ってバランスを取る存在ですね」。現在は、ピアスなどのアクセサリーを中心に制作しており、ライス型は昨年秋からつくり始めた新作だ。いろんな「好き」を味方につけて、Shiiboさんの創作は続く。
今回、dancyuの名前入りで特別につくってくれた大・中・小のライス型を抽選で各1名様にプレゼント。大はターリー皿で使用したサイズ。かわいい小サイズは裏返して器としても活躍する。応募は下のリンクをクリック!(応募期間は8月5日までとさせていただきます)
文:本庄 彩 写真:エレファント・タカ