2021年6月号の特集テーマは「じゃがいも愛」です。世界のじゃがいも第二話にも書かれていた通り、たまに美味しいフライドポテトには出会うが、基本そんなに心惹かれないという石田ゆうすけさん。そんな彼をフライドポテト好きにさせる調味料がありました――。
「フライドポテト発祥の地はどこか知っているか?」という質問を、ベルギー人から何度されただろう。彼らは胸を張って「ベルギーだ」と答えるのだが、実は諸説あり、フランス人は「フランス発祥だ」と答えるようだ。
ベルギーの友人宅に泊まったときも、友人から同じことを聞かれ、街に連れだって出かけたときは「これが元祖フライドポテトだ」とご馳走してくれた。日本の一般的なサイズよりやや太めのフライドポテトにマヨネーズがかかっている。食べてみると、友人は僕の顔をじっと見つめ、ニヤリと口角を上げながら言う。
「どうだい、違うだろ?」
「うん、そうだね」
そう答えながら、関西人の僕は「一緒や」と内心突っ込んでいた。
好きな人には違いがわかるのかもしれないが、前の記事に書いたとおり僕はフライドポテトをそもそも食べない。ぶっちゃけるとそんなに好きではない。ハンバーガーチェーンに行ってもポテトを食べないのでいつも単品で頼んでいる。
そんな僕だが、このあと行ったイギリスで嗜好が一転するのだ。
ご存じのとおり、食に関して揶揄されてばかりいる国だが、実際行ってみると噂通りで、「どうしてこんな味にするんだろう?」と首を傾げることが多々あった。
だがもちろん例外はある。イギリスの国民食といわれるフィッシュ・アンド・チップスには大いにハマった。
カリッとした衣にかぶりつくと、湯気と共に白身が現れる。はふはふ息を吐きながら噛めば、はらはらと身がほどけ、ほっこりしたタラの甘味が広がっていく。
それだけでも十分旨いが、さらに人を病みつきにさせる魔法があった。酢だ。モルトビネガー(麦芽酢)の瓶がどの店にも置いてあり、現地の人はフィッシュを包む紙がべちゃべちゃになるぐらいドバドバかけている。最初見たときはギョッとした。酢だぜ、酢。そんな風に使うものじゃないだろ。
僕はレモンを絞るがごとく、ちょろっとかけ、かぶりつく。ん? 何か足りないな。またかける。あれ? 風味が上がった? さらにかける。うん、旨いよこれ。さらにかける。まだいける。ええい!
ドバドバドバ~!と結局イギリス人と同じようにかけて食べていたのだった。揚げ物がさっぱりするうえに、マイルドな酸味と麦芽由来と思われる芳醇な旨味が加わり、味が一気に膨らむのだ。
モルトビネガーは当然、フィッシュと共に紙に包まれているフライドポテトにもかかる。じゃがいも+油+塩のシンプルな味に彩りが加わり、俄然奥行きが増す。
それからは好んでフライドポテトを頼み、モルトビネガーをかけまくって食べるようになった。イギリス以外の国でもそうやって食べていたので、酢をかけて食べるのはごく一般的なことだと思ったし、僕のなかでもそれが当たり前になった。
そうして7年半ぶりに日本に帰ると、さほど日もたたないうちにマクドナルドに行って、単品ではなくセットを注文し、当然のように「ビネガーもください」と頼んだ。店員の女性は「は?」という顔をする。しまった、ここは日本だ。慌てて「酢です、酢」と言い直したが、問題はそこじゃなかったらしい。女性は変わらず困った顔をしている。
日本のハンバーガーチェーンでポテトを食べる習慣がなかった僕は、ビネガーを置いていないなんて思いもしなかったのだ。そもそもモルトビネガー自体、日本では馴染みがないものだということものちのち知った。
こうして僕は再びフライドポテトと疎遠になるのだが、数年後、ふとしたことからまた付き合いを始めることになった。きっかけは妻だ。
以下は余談になるが、今すぐにでも試せるレシピ(?)なので紹介しようと思う。
妻と付き合いだして間もない頃、マクドナルドに行くと、彼女はポテトをソフトクリームにぶすと突き刺し、ディップして食べた。イギリス人のビネガー大量がけを初めて見たときのような衝撃を受けたのだが、勧められるがまま同じように食べてみると、二口目にはハマった。
もしかしたら広く知られた食べ方かもしれないけれど、やったことのない方はお試しあれ。ただ、カロリーが気になる方は今すぐ忘れてくださいね。ほんと止まらなくなるので。
文:石田ゆうすけ 写真: 出堀良一