京都の大学に勤務していた松尾貴史さんは、気になっていたが訪れず終いだった店が一軒ありました。ようやく最近食べにいけた「気になる店」のお味とは。
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)に客員で通っていた頃、定宿が近かったので烏丸通りや三条のあたりをうろつく事が多かった。
今は移転してしまった蕎麦店「更科よしき」(麻布十番の「更科堀井」で修業なさった実直なご主人の素晴らしい蕎麦がやみつきだった)で手繰った後、全国的に名の知れた喫茶店「イノダコーヒ」で深煎りのジャーマンコーヒーを飲むという事が多かった。三条沿いに「カマル」というカレー店があるのは気がついていたが、ついに入る事なく大学を退任してしまい、このところ足が遠のいていた。
先日、撮影で京都を訪れたので、気になっていた「カマル」のカレーを食べてみようと思い立ち、初めて食べる事ができた。単一のカレーと2種がけのコンビネーションで、組み合わせを選ぶ形は、その昔東京の原宿にあった有名カレー店「GHEE」(近年間借りカレーで復活したという情報も)を思い出す。
果たして登場したコンビのカレーは、まさにそれだった。「GHEE」の流れを汲む店、影響を受けた店は、東京でも「BLAKES」「カリーアップ」「MOMO」「ハトス・アウトサイド」「vovo」(ここも昔、新潟の古町あたりを歩いていて偶然に見つけて入って感動したが、その後東京の学芸大学に支店を出している)など、多くのカレーDNAが受け継がれている。
「カマル」のカレーは少しサラリとした印象で、香りに特徴が見られた。きっとそれぞれで独自に進化しているのだろう。ビーフカレーは濃厚な色合いで、鋭い辛さがあって心地よい刺激、野菜カレーはどこか懐かしいような家庭的な雰囲気の味わい、両者のバランスがいい。少し汗ばみ、初夏の風を感じながら、体が軽くなった感じがした。
退店時に「こちらは原宿の……」と問いかけると、「『GHEE』の赤出川さんに伝授していただきました」と明快なお答え。再訪必至になりそうだ。
文・写真:松尾貴史