松尾貴史さんが長らく通っているという京都のカレー店。そこで聞いたカレー屋ならではの素敵な話とは。
この10年ほど前から、私が京都を訪れると高い確率で足が向くカレー店「スパイス・チャンバー」がある。四条烏丸の交差点の至近で、遠くからもわざわざ食べに来るファンも多い。
しっかりとした食感の粗挽き肉を使用したキーマカレーで、辛さも相当にしっかりしている。
もともと、大阪の名居酒屋の大将に教えてもらって知った店だが、「彼が薦めるなら間違いない」と初訪問した日のことは今でも覚えている。
顔も声もいいカッコ良いオーナーと、顔も声もスタイルもいい超美人の奥様との名コンビによる素敵な店で、音楽関係の仕事をなさっていた雰囲気がある。だからだろうか、水のコースターもレコード盤をモチーフにしている。
土曜日はランチのみ、日曜日は休み、というところを見ると、音楽のライブに遠征する習慣があるのだろうかと勝手な妄想を繰り広げつつ、カレーの到着を待つ。不思議なのは、なぜかドリンクメニューにコーヒー牛乳があることだ。
メインのキーマカレーは、鋭い中にも繊細な辛さとスパイスの芳香がまた洗練されている。これはシンプルだがなかなか真似のできない味わいだ。
ところで、東京・経堂の雑居ビルの3階に、「スパイス婆ちゃん」という変わった店名のカレー店がある。この名前を見たときに、私は「もしや」と思った。「スパイスチャンバー」と、発音が似ているというだけなのだが。
はたして、やはりよく似た形のキーマカレーだった。話を聞くと、「スパイスチャンバーが好き過ぎて、名前ももじりました」のだそうだ。
今回、京都の「スパイスチャンバー」のご主人に「スパイス婆ちゃん知ってます?」と聞いたら、黙って、自身がかぶっている黒い帽子を指差した。
「挨拶に来られて、グッズを送ってくれました」と。
こういう繋がり、カレー店ならではで、素敵ではないか。
文・写真:松尾貴史