怪魚の食卓
エビ界トップクラスの濃厚なミソ|怪魚の食卓㊿

エビ界トップクラスの濃厚なミソ|怪魚の食卓㊿

ミソが美味しいエビの中でも、特段濃厚なミソが食べられるという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

頭胸部のミソがみそ「ゾウリエビ」

お察しの通り、ゾウリ(草履)に似ているからその名がある。頭胸部の両縁はギザギザで、前方には大きな2本の触覚が平たく伸び、その先端には多くのトゲが並ぶ。2本の触覚の間は深く切れ込んでいてタビ(足袋)にも似ている。だからタビエビと呼ぶ地方もある。また、英語名はジャパニーズ・ミトン・ロブスターという。英語圏にはゾウリもタビもないからミトンの名を借りている。

体全体が厚くて硬い甲殻に守られ、表面には小さな粒状の突起が無数にあってその間に短毛が密生している。体色は個体によって異なり、黒褐色や黄褐色、またはその中間色で全体にまだら模様がある。足は短い。こんな姿で岩陰にじっと身をひそめ、夜になるとエサをあさりにはい回るのだ。

本連載の3回目に登場したウチワエビと似ていて、混同している土地も少なくない。両者を見分けるコツは頭胸部の外縁カーブをよく見ること。ウチワエビは左右に広がってウチワ(団扇)状なのに対し、ゾウリエビは左右がわずかに広がるタビ(足袋)状なのだ。

主な産地は沖縄、鹿児島、高知、和歌山で、多くはイセエビ狙いなどの刺し網に混獲され漁獲量は少ない。非常に美味で、イセエビ以上という人もいる。だから高価な取引で流通され、多くは料亭などで消費されている。だがたまに格安で産地の店先に並んでいることもある。

刺身や塩ゆで、塩焼き、蒸し焼き、味噌汁などどれも絶品だが、迫力ある姿を生かすなら陶板焼きだ。イセエビの鬼殻焼きに似た香りだがさらに強く感じる。尾部に詰まっている白身は焼くことによってさらに上品さをまとう。頭胸部のミソの濃厚さはエビ類のなかでトップクラスだ。しゃぶりつきたいが、鋭いトゲにはくれぐれもご注意を。

ゾウリエビの陶板焼き
①生きているもの選んで水洗いする。
②陶板(土鍋で代用可)にのせて蓋をし、蒸し焼きにする。
③甲殻をはずして尾部の白身と頭胸部のミソを味わう。
ゾウリエビの陶板焼き

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏