普段はなかなかいかない地にきても相変わらずカレーを探す松尾さん。鳥取で見つけた滋味深いカレーとは。
島根県の美保関で佐野史郎さんの朗読会を観に行って、鳥取県の米子で宿を取った。せっかく普段来ないところへ来たのだから、とウロウロしたり地元の方に聞いたりで、ホテルの人から「米子でカレーと言えば『とんきん』でしょう」と教えられたが、11時開店のようで、11時25分の特急に乗らねばならず、乗り遅れる可能性大であきらめた。しかし店の外観だけでも写真に収めようと行ってみた。
ところが、コロナ禍の怪我の功名か、10時半頃すでに「営業中」のプレートがかかっている。「いらっしゃい、どうぞ~」という声をいただき、カウンターに着いて、インドカレーに生卵が付いた玉子カレー(550円)とサラダ(200円)を注文した。
外観の写真を撮り忘れたことに気づき、外に出て戻ったら、もうカレーがカウンターに置かれていた。程なくしてサラダも出たので野菜をワシワシ食べて、カレーを一口。
オーソドックスなのだけれど、滋味があり、辛味が思ったより強い好みの塩梅だった。
生卵を乗せるのはやはり関西以西のなじみだろう。そして、目の前にはウスターソースが置かれている。西日本(特に大阪)のスーパーマーケットには、ウスター、中濃、とんかつ、お好み焼き、たこ焼き、どろ、リーペリンなど、多いところは30~40種類も置かれているほど、ソースに対する愛着が強い。試しに小さくひと回しかけてみると、やはり味に奥行きが出てくる。
ソースの材料は玉ねぎ、トマトなどの野菜、果実、シナモン、クローブ、胡椒といったものなので、カレーに合わないわけがないのだ。
はたして、列車には十分間に合う時間に食べ終わることができた。
年配のご姉妹が切り盛りされている様子で、「なぜこの店名なのですか?」と聞いてみたら、「トンキン湾っていう台湾(?)のほうの地名だそうですよ。何でその地名を店の名前にしたのか私たちもわからないんです」と答えてくださった。トンキン湾はベトナムの方だったと思うが、何か先代が思い出をお持ちだったのだろうか。
快適な応対で雰囲気も良く、また米子に来たら立ち寄ろう。
文・写真:松尾貴史