怪魚の食卓
味が分かる6本の脚で歩く!?|怪魚の食卓㊼

味が分かる6本の脚で歩く!?|怪魚の食卓㊼

その怪魚が海底を動く姿は衝撃的だ。6本の脚らしきものを動かし、ほうぼう動き回るのだという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

怪魚のなかの怪魚現る「ホウボウ」

ホウボウのすごさはなんといっても、夜間になるとエサを求めて海底を歩くことだ。6本の脚を使ってトコトコ歩いているように見えるが、脚ではない。ヒレである。ホウボウの胸ビレは大きく、内側が青緑に染まっていて美しい。その胸ビレの一部が分離して左右3本ずつ細長く変化したものが、先の脚の正体である。

胸ビレを広げ、海底を歩いている姿はまるで滑走路を助走する飛行機のようだ。「方々」を歩き回るからホウボウと名付けられた、という説や、這うように歩くので「這う、這う」から名付けられたという説もある。

左右3本ずつの脚、いや、細長いヒレは、歩くという機能だけでなく、その先端には味を感知できる器官がある。われわれならば足の先に舌があるようなもので、まったくへんてこりんな魚なのだ。さらにこのホウボウは「ぐうぐう」という大きな音を立てる。浮袋を収縮させると出てくる音なのだが、ホウボウを釣り上げた釣り人たちには「逃がしてくれ!逃がしてくれ!」と訴えているような鳴き声に聞こえて、なかなか心が痛む。

ホウボウは魚屋で比較的よく見られる。体は朱色で美しいが、頭部が硬い骨盤に覆われて鼻先が突き出た偏屈顔。これが高級魚として扱われている。料理の仕上がりが美しいのでプロの料理人も好んで使う。淡泊な白身で鍋や刺身、塩焼き、煮つけ、蒸しものなど使い勝手がよく、どれもおいしく仕上がる。なかでもホウボウの味を堪能するならば薄造りに尽きる。美しい仕上がりに誘われてひと口ほおばれば、まず弾力のよさに感動する。白身の魚としては脂質が多く、味わいはどこまでもさわやかなのに噛むほどにうま味があふれてくる。甘さが清楚で初々しいのも、心なごませてくれる。「逃がしてくれ!」と鳴かれても、そうはできない理由がここにある。

薄造り
①包丁の刃先でウロコとぬめりを取り除く。
②頭とエラを切り落とし、腹を切り開いて内臓を取り除く。
③背に切れ目を入れてから中骨の上に包丁を進めて二枚、さらに三枚に下ろす。腹骨部分を切り取り、小骨を抜く。
④皮目を下に置き皮を残して薄造りにする。ワサビ醤油やポン酢醤油で食べる。
薄造り

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏