場内を走り回る車「ターレット」。その由来とは?豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
市場のなか、春の小川のミズスマシみたいに走り回るターレット。運転席にハンドルが付いた樽状のものが乗っかり、後ろに荷台。正式名称は「ターレット型構内運搬自動車」。運ぶ機能だけに特化、れっきとしたクルマである。
ターレット。かわいい名前だ。樽→丸い→タルト→小さな丸→タルトレット。モノの名前って、トリビア的なことがよくある。ターレットもそうなのかも。タルトレットに語源があって……。そこから先の物語は思いつかないんだけど。
しかし、私のメルヘンはハズレ。違う物語があった。
いきなり戦艦武蔵である。アメリカの大富豪が発見したとやらの。ああした戦艦の大砲は360度回転することから、ターレットと呼んだ。戦後の復興途上、回転するという技術を参考に、当時の自動車会社が開発。名前も、ターレットとついた。語源は、汗と涙の戦後復興物語にあった。
この話を教えてくれたのは、場内でターレットの販売、修理を行う「酒井輪業社」社長の村口邦義さん。お喋りしながら気づいた。あの特徴的な運転席の丸型の部分を、ずばり「樽」と呼んでいる。樽だよ、樽。幸せな時代、樽からタルトレットをトリビアしたのも無理ないわよ(負け惜しみだよ)。
「樽」は、360度回転する。だからこそ、小回りがきく。ミズスマシのごとく。最大積載量は、1~2t。とはいえ、それじゃ仕事にならない。数倍の荷物を運ぶ。そのためタイヤは丸ごとゴム製。空気入りのタイヤだと毎日がパンクで、酒井輪業社さんは儲かるだろうけど。スピードは不要なので、最高時速は15km。どこまでも働き者にできている。
目下の関心事は、ターレット2000台の豊洲移転。運転には小型特殊免許以上が必要、ナンバープレートも付いたクルマである。現在の車両にバックミラーを付けたら公道走行も可能だ。豊洲へターレットの大行進!あるかしら……。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2015年5月号に掲載したものです。