大好きな新玉ねぎを育てるか迷っている訳とは?豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
ちょっと迷っている。区民農園で小さな畑をやっており、3月は、土づくりなどしながら、この1年の栽培計画を練る時期だ。そこで、玉ネギを計画に加えるかどうか、やるかやらないか、迷っている。
築地市場の青果部は、今、新玉ネギの季節だ。緑濃い葉をつけたまんまで、掘りたてを強調しているのもある。新玉ネギというのは、乾燥せずに出荷するので、そのぶん、保存はあまりきかないが、みずみずしい食感やさわやかな甘みが売りだ。
私、新玉ネギが大好き。たとえば、かき揚げ。ひと口で頬張れるサイズに揚げ、そばといっしょに食べるうまさときたら。いっさいの薬味なし。そばたぐり、新玉頬張りをくり返すのだ。余ったら、甘辛く煮つける。よよと衣がはがれ落ち、白き素肌をのぞかせたあられなき姿も、いとおかし、である。
はたまたフライ。揚げたては無論のこと、冷めたヤツを電子レンジでチン。シュウシュウ熱々のとこを、新キャベツの千切りのうえにのせ、ウスターソースなどをかける。新玉クッタリ、キャベツシャキッのリズム感もよく、おやつにおすすめだ。
スープで丸ごと、コトコト煮たのは、常備菜。スープごと冷蔵庫で冷やし、ふたつに切ってそのまま、あるいは付け合わせに。新玉の香りが移ったスープは、焼き肉などのあいまにすすると、いっそう箸が進む。
こうした好物を、みずから育て、味わう。この野望を抱き、一度だけ挑戦したことがある。で、懲りた。自然農法をめざすという志は高いのだが、実態は草ぼうぼう、虫はつき放題、水やりも肥料もその日気分のでたらめ農法である。引っこ抜いたら、ラッキョウ以下。おまけに、玉ネギは秋に苗を植え、冬を越し、春遅くに収穫と、季節をみっつもまたぐのだ。あの甘みは、だからこそなのね、と実感できたけど、なにせ平方メートルしかない畑である。そこを、長期間、占拠されるのは、イタイ。再挑戦か否か。新玉ネギあふれる季節、心、千々に乱れっぱなしなのだ。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2013年4月号に掲載したものです。