居酒屋の定番メニューの中でも、家庭でつくるのが難しい料理といえば、「もつ煮込み」でしょう。「とりあえずビールと煮込みね!」なんて気軽に注文しがちですが、とにかく手間と時間がかかる料理なんです。2021年2月号「煮込む。」特集、「東京もつ煮名鑑2021」では都内の酒場を60軒以上食べ歩き、厳選したもつ煮の名店13軒を案内しています。その中から、今回は森下の知る人ぞ知るもつ焼き酒場の名物煮込みを、本誌に収まりきらなかったエピソードも交えつつご紹介!
ジュワジュワと音を立てながら、熱々の土鍋に盛られた“にこ玉”が目の前に。従来のもつ煮込みに「卵を落としてほしい」という常連客のリクエストから生まれた人気メニュー。鶏レバーに甘辛のタレを絡めた「純レバ」と並び、いつのまにか店の名物になった。
深川芭蕉通りで40年続く「三徳」の煮込みは、注文を受けるたびに大鍋に入ったつくり置きを柳川鍋用の土鍋に移して火にかけ、グツグツと煮立てて提供される。
「長時間ずっと煮込みすぎると肉質が落ちてきちゃうから、うちは創業からこのスタイル。熱々の状態で出せるし、店にとってもお客さんにとっても一石二鳥でしょ」と店主の早川成次さん。
名古屋のどて煮にも通じるこってりした味わいは、黄身との相性抜群。半熟一歩手前の絶妙なタイミングで火を止めるのがなんとも心憎い。鍋肌の和辛子を溶かせば、さらなる味変が楽しめる寸法だ。
芝浦まで店主がほぼ毎日足を運び、つるしで仕入れてくるもつは新鮮そのもの。新鮮な状態のまま処理し、ゆでて一晩ねかせたあと、コクの出る八丁味噌と、甘みのある仙台味噌で煮込んでいく。味が決まったらもう一晩ねかせてよりまろやかに。銀座のフランス料理店に務めた経験を持つ店主だけあって、肉の処理には手間ひまを惜しまない。
「ウチの煮込みの特徴は、野菜が一切入っていないこと。何より、もつの脂と甘みを感じて欲しいから、ほかはこんにゃくぐらいしか入れてないよ」と早川さん。ホルモンの旨みを純粋に味わえる、極めつけの一品と言ったところか。
なお、もつ煮込みは定食でのオーダーも可能。白飯と一緒にかき込むのもまた一興だ。
文:宗像幸彦 写真:岡本寿