日本酒にとって欠かせない原料である米と水。品種や地域の違いによってどんな味の違いが出るのだろう。田んぼから飲み手まで続く日本酒リレー、その最後の担い手である酒販店が日本酒と米の関係を語ります。3回目は、「會津酒楽館」が「会津娘」「天明」「仙禽」「澤乃花」の4種をピックアップ。
酒米は現在栽培されているものだけで100種類以上もあるという。蔵元は自分が造りたい酒に合わせて、その中からふさわしい酒米を選んでいるということになる。
米、水に人の思いが加わることで、醸す味わいは広がり、そのストーリーとともに口にすれば心に残る風味となる。
福島県会津若松市で蔵元や酒米農家とも密接につながりながら、“地酒とは何か?”を模索する酒販店「會津酒楽館」の渡辺宗太郎さんに話を聞いてみた。
「酒米を育てる田んぼは、品種によって風景がまるで違うんですよ。たとえば山田錦は130cm以上まで伸びることもあります。その迫力のある大きさにはきっと驚きますよ!」と渡辺さんは語る。
酒米は栽培するそれぞれの土地に合った品種が根付いていて、当然その土地ならではの味わいに結び付くものだという。
「日本酒造りを突き詰めると、米と水に行き着くように思います。酒の仕込み水と田んぼの水を同じ水源から取る蔵元もいれば、離れた地域からいい米を入手する蔵元もいる。目指す方向で味わいが違うからこそ日本酒は面白いのです」と話す渡辺さん。
渡辺さんは味わいだけでなく、背景に広がる美しい故郷のふるさとを感じる酒が好きだという。お薦めの4本を紹介してもらった。
――会津の地元愛を感じる名前の日本酒ですね。
まさに会津を代表するような酒です。純米吟醸酒の中では、ライトで穏やかな味わい。早熟なメロンのような青い香りと、ほのかな甘味を感じると思います。派手さはないけど、素朴でほっとするような酒といった感じでしょうか。
――酒米は淡麗のイメージがある“五百万石”ですが、会津産の特徴はあるのですか?
会津産の“五百万石”を使うと、ボディ感のある味わいになって、やや線が太くインパクトが増す印象です。「会津娘」の中でも「穣」は一つの田から収穫した米で酒を醸し瓶詰めするシリーズです。何枚もある田んぼでも、それぞれに味わいが違うんですよ。米の力を感じ取りやすい酒といえますね。
――黄色のラベルが目に鮮やかですね。どんな味わいなのでしょう?
穏やかな香りとやわらかい甘味、爽やかな酸味という三位一体のバランスが抜群です。シュッとラムネが溶けるような余韻がとてもチャーミング。麹米に“夢の香”、掛米に“福乃香”という福島県で生まれた2種類の酒米で醸した“福島二重奏”のような酒です!
――“夢の香”と“福乃香”にはそれぞれどんな特徴がありますか?
“夢の香”を使うと優しい甘味を感じるやわらかい酒になります。福島人好みの味ですね。名前には“口に含んだ瞬間、夢が広がるような酒になるように”という願いが込められています。
“福乃香”は福島県が15年の歳月をかけて開発した酒米です。米の粒が大きく柔らかく育ちます。米が溶けやすいので低温でじっくり酒を醸す造りに適していますね。「天明」を飲んで、福島の米に興味をもってもらえたらうれしいです。
――「モダン仙禽」は栃木県で造られた酒なのですね。
口に含むと膨らみのある上品な甘味が広がり、ツルッと喉元に吸い込まれていくようなナチュラルな喉ごしが特徴です。蔵元の「せんきん」は、かつては“甘酸っぱい日本酒を造る蔵”というイメージだったのが、どんどん洗練された味わいに変わってきているんです。その背景には“ドメーヌ化”があります。
――蔵元の“ドメーヌ化”とは何ですか?
ドメーヌ化とは、原材料から最終製品まで一貫生産することです。ワインの世界で使われる用語です。「せんきん」では、それを一歩進めて、蔵の仕込み水と同じ水系の田んぼで育てた酒米で酒を造る取り組みをしているんです。特徴的な喉ごしも、水のニュアンスから来ている気がしますね。ぜひ体験してほしいです。
――「澤乃花」はどんな土地で造られているのですか?
長野県佐久市で造られた酒です。原料は長野の酒米“ひとごこち”。ライチのような穏やかな甘味がスーッと顔を出した後、シャープな余韻を感じます。いかにも澤の花らしいキレと甘味が、個人的に大好きな味わいです。酒質とは関係ないですが、蔵元の奥さんは会津出身ということにも、親近感を持ってしまいます。(笑)。
――「伴野酒造」はどんな蔵元なのでしょうか?
透明感があるきれいな余韻をつくるのが抜群にうまいですね。杜氏の伴野貴之さんは「長野を盛り上げたい」という信念で酒造りをしているので、地元の酒米“ひとごこち”を使っているのだと思います。地域に根付いた酒らしく、売り方や酒質をあえて都会のニーズに合わせないという割り切った姿勢が応援したくなるんですよね。
「店で扱う日本酒を選ぶときは、杜氏の人柄や酒が醸される環境にワクワクできるかどうかで決めています」と語る渡辺さん。
紹介してもらった日本酒の話を聞いているだけでも蔵元の姿勢に関心をもったり、米が育つ土地を見てみたくなったりする。まるでひいきのスポーツ選手を見つけたような感覚だ。
味だけではない、その背景にあるストーリーに、ますます興味がわいてきた。
1975年、会津生まれ会津育ち。高校を卒業後、「北海道ワイン」へ就職。1999年に会津に帰り「會津酒楽館」の店主となる。“日本酒は國酒である"そして“口に入れる食物、飲み物は、安全な品でなければならない"がモットー。
會津酒楽館 渡辺宗太商店
【住所】福島県会津若松市白虎町1
【電話番号】0242-22-1076
【営業時間】9:00~19:00
【定休日】火曜
文:河野大治朗 撮影:kuma*/會津酒楽館