数々の著名人を虜にし、2019年に惜しまれながら突然幕を閉じた伝説の店「虎ノ門 港屋」。その味がカップ麺として登場だ。ファンには懐かしく、知らない人には刺激的なラー油の辛さと旨味たっぷりの汁で麺をすする食体験は快楽というほかない。dancyu食いしん坊倶楽部の有志が発売前にいち早く試食。新たな伝説の誕生の場に立ち会った。
「か、辛ーい!けど、クセになる!」とカップを片手に興奮まじりの言葉を交わすのは、dancyu食いしん坊倶楽部の面々。2020年秋、新宿の「日清食品」本社で、ある商品の発売前試食会に参加していた。
メンバーたちが手にしているのは、2019年に惜しまれつつ幕を閉じた立ち食い蕎麦の名店「港屋」と「日清食品」が共同開発したカップ麺。「港屋」の名物である“肉蕎麦”をイメージした濃いめの甘辛いスープ、プツッと切れる歯応えのよい太麺は、カップ麺と思えないほどの旨味と食感が味わえるとメンバーたちから好評価を得た。実際に「港屋」の“肉蕎麦”を知るメンバーも「家でこの味が食べれるのはうれしい!」とにんまり。
なかでも大いに注目を集めたのが、調理の仕上げにかける特製「港屋 辛香るラー油」だ。「港屋」の蕎麦といえば思い出されるのが、あとを引くような辛味。今回の商品では印象的な辛味を加えるために後入れのラー油が付いている。出来上がりにスープに垂らすと、湯気と共に食欲をそそる香りが上ってくる。
小池さん(20代男性・大学生) 「カップ麺としては革新的なだしの旨味を感じました」
鈴木さん(30代女性・不動産) 「辛さに包容力がある。パンチの後に甘味がくる」
峯崎さん(40代男性・サービス) 「乾麺じゃないような食感で、麺の歯切れがすごくいい」
ラー油をまとった麺を吸い上げると、あまりの辛さに「ブフッ!」と噴き出しそうになるメンバーが続出。忖度なしの鮮烈な辛味から「開発者の本気度がうかがえる」と、額にはじわりと汗が滲む。
むせるほど辛くてうまい味わいを「これは、“むせうま”です!」という表現した1人の感想に、メンバーたちは納得の表情を浮かべた。
二度目の試食では、麺や具材、スープをじっくりと確かめるように味わっていく。
あるメンバーは「もう一度あの“むせ”をしたくなっている、“むせ”を欲している自分がいる」と呟き、何杯でも食べられる味わいと太鼓判を押していた。
食べ進める中で共通して挙がったのは、「コクのある辛味と甘辛いスープの旨味には、卵やバターのようなトッピングが合いそう!」という声。濃いだしの味わいが持つ懐の深さには、自分色に染めてみたくなるような魅力があるのだ。
「その言葉を待っていました」と開発担当者が用意したのは、20種類を超えるトッピング食材。海苔やご飯などの定番ものから、牛脂、レモン果汁といった変わり種までがずらりと並び、メンバーたちは大興奮!各々が好みの味わいをつくりあげるトッピング大実験が始まった。
宮崎さん(30代女性・コンサル) 「徐々に辛味がなじんで、おいしさが増していく」
吉本さん(40代男性・IT) 「卵が完璧に合う! カップ麺史上一番かもしれない」
鈴木さん(30代女性・不動産) 「ちょい足しすれば何杯食べても飽きないのがすごい」
まるで大人の自由研究の様相を呈してきた試食会の中、1人の男性が会場に現れる。
「僕たちがつくったカップ麺はどうですか? 『港屋』の味を越えようという意気込みでつくったんです。いろんな技術革新があって出来た味わいなんですよ」と語るのは「港屋」の元店主であり創業者の菊地剛志さん。
教えてくれたのは、「日清食品」の製麺技術を駆使して限界まで太くした麺や、とろみをつけることで濃厚な味わいに仕上げたスープの開発秘話。菊地さんと「日清食品」開発者たちのたゆまぬ努力を知り、メンバーたちはより味わい深くなった蕎麦をすする。
「『港屋』では、卵やあげ玉、一味唐辛子といったトッピング用の食材を客席に置いていました。今回のカップ麺も、まさに皆さんが楽しんでいるように自由にアレンジしながら食べて欲しいと思いながらつくりました」と菊地さん。自身でも考えてきたというカレーと辛味にんにくの風味を利かせたトッピングを披露し、さらにテンションが上がるメンバーたちだった。
港屋カップ麺 | 1個 |
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カレールー | 小さじ1(フレーク) |
にんにく | 適量(すりおろし) |
胡麻油 | 適量 |
白胡麻 | 小さじ1 |
長ねぎ | 小さじ1(小口切り) |
辛味にんにく | 適量(刻みにんにくと豆板醤をお好みで和えたもの) |
カップ麺のフタの上の特製「港屋 辛香るラー油」の袋を取り、フタを開け、カレールーと沸騰した湯430mlを入れ、フタをする。
5分後、にんにくを入れてよくまぜ、特製「港屋 辛香るラー油」と胡麻油をかける。
白胡麻、長ねぎを振りかけ、辛味にんにくをのせたらできあがり!
1974年、山形県生まれ。日本大学卒業。株式会社KIKUCHI Art Gallery 代表取締役。銀行に入行後、独学で蕎麦を学ぶ。2002年、東京・虎ノ門に「港屋」を創業。現在は、自身の感性を生し多分野の商品をディレクションしている。
文:河野大治朗 写真:kuma*