明日、どこに食べに行こう?
マトンの旨味が爆発するモンゴリアン・チャイニーズ「BAO」|羊が旨い店⑥

マトンの旨味が爆発するモンゴリアン・チャイニーズ「BAO」|羊が旨い店⑥

新橋にある「BAO」は羊好きの魔窟と言える店です。お好きなみなさんならご存じのように、羊はクサいとか、カタいとか、そんなのは昔の話。今や幅広いジャンルで、香り高く軽やかで、素晴らしくおいしい羊料理が食べられます。そんな羊がおいしい店をご紹介します!

骨付きに齧りつく快感!

羊好きの魔窟、そんな言葉が頭に浮かぶ。紅い壁に囲まれた8畳ほどの空間に、ムンムン立ち込めるマトンの香り。店主のBAOさんがカウンターからフランクに話しかけてくる。人の心を包むような笑顔に、頼もしい言葉。“新橋の母”に会いに今日も人が集まってくる。小さい店なのに、毎晩半頭の成羊がはけるのだ。
「うちはマトンを使うの。ラムより旨味が濃いし脂がおいしいからね」

中国・内モンゴル出身のBAOさんが留学生として来日したのは28年前。料理好きで9歳の頃から進んで台所に立っていた彼女は、日本でも知人の店を手伝っていた。ある日、BAOさんの料理の腕前に惚れた食通が、彼女の羊料理を囲む会を開催。食べた一人がすぐにBAOさんのスポンサーに名乗り出た。こうして3年前に店をオープン。半年の期間限定と決めていたが、どんどん客がついた。

BAOさん
新橋の母、BAOさん。日本語ペラペラ。客からやたらハグされるとか。

羊の塩ゆでが出てきた。肉塊がぶるん、と揺れる。柔らかい肉を口いっぱいに頬張ると、濃厚な甘い肉汁が歯の間からあふれ出し、思わずため息をついた。なんて官能的な旨味だろう。

羊の塩ゆで
看板商品でもある羊の塩ゆで。特製のタレやミックス山椒が添えられるが、まずは何もつけずにマトンの旨味を味わってほしい。

「枝肉で仕入れた半頭をさばいて強火でゆでるの。調味料は塩だけよ」
旨味の量が数値化できるなら、家畜肉のトップは羊じゃないだろうか。常々そう思うのだが、この塩ゆでを食べたら確信に変わった。こんなシンプルな料理が成り立つ肉は、羊以外ない。

羊の塩ゆで
毎日半頭分をゆでてつくる羊の塩ゆで。塩はゆで時間を半分過ぎたところで入れ、アクは旨味なのですくわない。火を止めて置いておくとアクが肉にしみてスープは澄んでいる。

「羊が苦手な人も誘われて来るけど、これを食べたら、みんなエッ?と目を丸くしてるわよ。うちで羊を好きにならなかった人っていないわ」
そういえば羊特有の臭みが一切ない。
「大事なのは火加減と塩を入れるタイミング。それと化学調味料は羊の臭みを出すと思うので、私は絶対入れない」

羊玉ねぎクミン炒め
羊玉ねぎクミン炒め。自家製ラー油で炒めたスパイシーな逸品。
ボーズ
ボーズ。特製の皮の中は羊スープと粗挽きマトン。

小籠包に似たボーズを口に入れると皮が裂けてスープが飛び出し、粗挽きの羊肉が弾んだ。再び恍惚に包まれる。
「羊のおいしさを日本に伝えたいの」
BAOさんのその思いは着々と実を結んでいる。豊満な旨味に魅了され、今日も魔窟へ一人、また一人……。

外観
2015年6月開店。BAOコース5,000円、激辛コース5,000円、羊のコース各3,500円。生ビール600円など。

店舗情報店舗情報

BAO
  • 【住所】東京都港区新橋3-14-6
  • 【電話番号】03-6435-6660
  • 【営業時間】17:00~22:00(L.O.、ドリンクは~22:30) 土曜は~21:00(L.O.)
  • 【定休日】日曜 祝日
  • 【アクセス】JR「新橋駅」烏森口より3分

文:石田ゆうすけ 写真:宗田育子

※この記事の内容はdancyu2018年6月号に掲載したものです。

石田 ゆうすけ

石田 ゆうすけ (旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。