下北沢の商店街から一歩脇道に入ったところに居を構える「クスクス ルージール」。店名にも入っているクスクスは絶品です。お好きなみなさんならご存じのように、羊はクサいとか、カタいとか、そんなのは昔の話。今や幅広いジャンルで、香り高く軽やかで、素晴らしくおいしい羊料理が食べられます。そんな羊がおいしい店をご紹介します!
人通りの多い一番街商店街から一歩脇道に入ると、下北沢は静かだ。ここに「クスクス ルージール」が誕生して、もうすぐ6年。シェフの金子さんは、独立するにあたって看板メニューをつくろうと考え、大好きな羊の料理を選んだ。クスクスは、まかないや家でつくっていた。「うちの奥さんが、僕がつくるクスクスが好きなんです」。店の名までクスクス ルージールにしてしまったのだから潔い。
炭火焼き仔羊のクスクスに、メニューにはないけれど、メルゲーズのトッピングをお願いしてしまおう。鉄鍋の蓋が開けられ、湯気と香りがあふれ出す。クスクスを皿に取り、香ばしい炭火焼きの肩ロースと、柔らかく煮込んだ肩肉、二つを味わい、メルゲーズを齧る。クスクスをまた取り、スープをかけ足し、鍋が空になるまでがんがん食べる。野菜の力でかすかに乳酸発酵する生きたスープは、何度食べても味わい深い。
淡々と調理する口数の少ない金子さんが、悪戯っぽい目でちらっとこちらを見る。今日のメニューが書かれた黒板には、ほかにもここにしかない魅力あるものばかりが並ぶ。でもこの店の看板はやはり、羊のクスクス、なのだ。金子さんはしっかり目的を果たしたのである。
文:佐藤澄子 写真:岡本 寿
※この記事の内容はdancyu2018年6月号に掲載したものです。