京都丹後半島の松葉ガニ専門店「魚政」。蟹の道34年の谷次兄弟が蟹を仕入れる目利き力と茹でる技を極める。まさに、匠の松葉ガニ(オス)とセイコガニ(メス)。今シーズン、松葉ガニを提供する高級旅館は予約で一杯。自宅で最高レベルの松葉ガニとセイコガニを満喫したい。
丹後半島沖の17~25キロ。メスは水深220m前後、オスは280~350mの泥の海底が住処だ。この泥の海底は餌が豊富で、蟹の身は充実し、味噌や卵も脂が乗る。さらに、漁場が近く、日帰り操業できることから、蟹が元気な状態で水揚げされる。
京都府京丹後市網野に店を構える魚政では、活の蟹しか仕入れない。仕入れ担当の谷次賢也は、柴山・津居山・浅茂川・間人の漁港の競りで蟹を目利きする。34年前からこの道に入り、これまでに目利きした松葉ガニは50万匹ほど、セイコガニは1,000万匹以上。まさに蟹の中を見通せる匠だ。
茹でると、腹の甲羅が艶々のべっ甲色になる、堅くて身が詰まった松葉ガニは数が少ない。相場が乱高下する上に、高価なので、毎回勝負の仕入れは非常に難しい。
セイコガニは1度目の卵『初卵』を抱えたものが美味。肉質は細やかで純白。内子も外子も濃厚で高く評価される。初卵のセイコガニで、元気で脚が揃っているものは、100杯に1~2杯。さらに220g以上の特大は500杯に1杯あるかの貴重品だ。
蟹は水温3度の水槽に何日か逗留し、漁のストレスを癒し、泥を吐かせる。蟹を茹でるのは、兄の谷次郁也。
茹でる前に、蟹をタワシで隅々まで洗い、茹でてからも丁寧にアクを流す。こうすることで、冷蔵庫に2〜3日おいても、味が締まることはあっても、臭くなることはない。松葉ガニとセイコガニは、茹でる塩分も時間も違う。
さらにサイズでも茹でる時間が違うから、3つの釜をフル稼働させて、それぞれ絶妙な具合に茹で上げる。 火を入れすぎても、足りなくても、蟹は最高の状態にならない。特に蟹味噌や内子は加減が難しい。
34回目のシーズンを迎えた、磨き上げられた蟹を茹でる技能は、簡単には真似できない職人技だ。
文:(株)食文化 萩原章史