怪魚の食卓
本日の怪魚は"褄黒鰍"|怪魚の食卓㉗

本日の怪魚は"褄黒鰍"|怪魚の食卓㉗

関東では殆ど見ることのない、迫力がありいかつい顔をしたその怪魚の身は、大変美味だという。見た目がグロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

“褄黒鰍”=「ツマグロカジカ」

カジカの仲間は多く、とても美味なことで知られる。主産地の北海道や東北ではケムシカジカやトゲカジカ、シモフリカジカ、ツマグロカジカの4種類が多く食べられている。カジカは大抵いかつい顔つきと体つきをしているが、ツマグロカジカは少し違う。体がややほっそりとして顔も小さい。とはいえカジカの仲間だから、なかなかの迫力であることに間違いはない。顔つきはいかにも意地っ張りそうだし、えらぶたのトゲがただ者ではないことを物語っている。

さらにツマグロカジカはほかのカジカにはない特徴を持っている。背ビレや尾ビレ、胸ビレにはっきりとした三条の黒い帯があるのだ。鮮魚店に並ぶときのツマグロカジカは体の色が黄褐色に見えるからその黒帯がかなり目立つうえに凄みをきかせている。ツマグロカジカの名は漢字で書くと「褄黒鰍」。褄つまり着物の裾の左右両端の部分や襟下が黒い色をしていることを意味する。この点では粋な魚といえるかもしれない。

ツマグロカジカは非常に味がいい。凄味のある外見とは違って味わいはこの上なく上品だ。脂肪分は比較的少ないのにうま味は十分ある。しっとりしたほどよい甘味を含んでいる。身が締まっているので産地では汁ものやから揚げ、マリネ、飯ずし(いずし。発酵させてつくるなれずしの一種)などにしてよく食べられる。卵を生のまま醤油漬けにした「かじかこ」は、いくらのようなプチプチした食感と濃厚な味で絶品である。

北海道の産地ではツマグロカジカで「ぬた」をよく作る。きれいな白身と黄色みを帯びる皮とのコントラストが美しい。もともと締まっている身が酢の効用でさらに締まり、見事なほどの歯ごたえを楽しませてくれる。北海道ではこの魚を「ギシカジカ」とか「ギス」と呼ぶことが多い。私見だが、ギシギシした食感からこう呼ばれるのではないだろうか。

ツマグロカジカのヌタ
①ウロコを取り除いてから頭をエラごと切り落とし、腹を切り開いて内臓を取り除く。
②肩口から中骨に沿って包丁を入れて二枚におろし、裏返して同じようにおろして三枚おろしにする。
③腹骨をそぐように切り取ってから身を皮ごと短冊に切る。
④酢にひと晩漬ける。
⑤味噌と酢を混ぜ合わせて(好みで砂糖少量)酢味噌を作る。
⑥④と⑤を混ぜ合わせる。皿に盛って小口切りにした青ネギを散らす。
ツマグロカジカのヌタ

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏