白金台にある「ダル・ビルバンテ・ジョコンド」ではイタリアの老舗料理店のような安定、安心の美味しさと居心地の良さを味わえます。
行きたくなるのは、たとえば雨上がりの夜だ。庭園美術館の森を眺めるテラス席は、濡れた緑の匂いがするだろう。犬の散歩をする人、抜ける風、そこに冷えたフラスカーティ。
ローマは街の中に緑が多いと、「ダル・ビルバンテ・ジョコンド」の店長、古川裕士さんが教えてくれた。彼らの店はローマ郷土料理店。カルボナーラやアマトリチャーナ、肉の煮込みとかの定番を、2012年から続けている。
なかでもつい頼んでしまうのがカーチョ・エ・ペペである。旬の皿もあるのに、もっと具があるパスタでもよかろうに、なぜ「チーズと胡椒」。しかしキリッとした塩気のペコリーノ・ロマーノと柑橘香の黒胡椒の黄金比。それをテーブルで仕上げる、とろけるような混ぜ具合はちょっとやめられない。
セコンドあたりで席が空いたら、店内に移ってもいい。ほぼ正方形の床に圧巻の50席、高い天井に煉瓦のアーチ。縦横斜めに詰め込んだテーブルはおしゃべりの声を膨らませ、その間を肉や香草の匂いと働き者のカメリエーレたちが交錯する。いつ行っても変わらない、品質保証のグルーブ感である。「100年続く店でありたい」ああ、と腑に落ちた。どんなときもみんなをほっとさせる揺るぎなさは、イタリアの老舗のそう、それだ。
文:井川 直子 写真:海老原 俊之
※この記事の内容はdancyu2017年11月号に掲載したものです。