広尾にある「メログラーノ」ではウンブリア州の郷土料理が楽しめます。郷土料理のぬくもりを感じる一方、鋭く洗練された味わいも持ち合わせた魅惑の料理に出会えます。
オープンしてちょうど2周年を迎えた「メログラーノ」。広尾駅から約4分。今日も大きな窓ガラスには、優しい光と集う人々の笑顔があふれている。
シェフの後藤祐司さんは、都内のリストランテを経て、イタリアの中部に位置するウンブリア州へ渡った。
「ウンブリアを選んだのは、田舎の郷土料理を学びたかったからです」
ウンブリアのトラットリアなどで2年、食肉加工を学ぶため、ペルージャの「マチェレリア・サンタクローチェ」、さらにシチリアの二つ星「リストランテ・ドゥオモ」と、計3年間の修業を経て帰国。自身の店のオープンを控え、試行錯誤の末行き着いたのは、「ただかっこいいではなく、親しみやすさ。美味しい、そしてわくわくする」というシンプルなことだった。
その思いを体現するのが料理。ウンブリアで最初に出会い、洗礼を受けた、思い出深き“リガトーニ ノルチーナ”。リコッタチーズと自家製サルシッチャのソースは、見た目には濃厚そのものだ。しかし口に入れた瞬間に、黒トリュフの香り、ナツメグ、ブラックペッパーがその予想を打ち消す。重いけれど軽やかな一皿。れっきとしたウンブリアの郷土料理ではあるが、軽く食べられるテクニックが隠されている。
以前からのスペシャリテ、“北あかりとトリュフのタルトタタン”の、美しい佇まいにも感動する。ナイフを入れ、一口頬張った瞬間の悦びは得難いものだ。フォンティーナチーズのソース、キャラメリゼしたキタアカリと玉ねぎを詰めたパイ、トリュフのジェラート。甘味、苦味、塩気。対照的な味わいが広がる。「前菜で食べて、ドルチェとして、再度、召し上がる方もいるんですよ」。確かに納得。
「最近はイタリアンがフレンチ化しているような気がしますが、立ち位置はそこじゃないと思うんです。イタリア料理は家庭の味から始まっているもの。肩肘張らず、自分の好きなものを、この空間で料理に表現しているだけです」
都会的でモダンだけどクラシック。落ち着くけど、刺激がある。後藤さんが好きな、相反する味覚や感覚が、絶妙なバランスで融合する場所。食べ手の想像を心地よく裏切ってくれる小さな驚きや楽しみ、そして新しい味を求めて、今日もあの店へ。
文:塚田 優子 写真:大山 裕平
※この記事の内容はdancyu2017年11月号に掲載したものです。