大きさから卵からすべてが規格外のイカとは?見た目がグロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
ソデイカは巨大だ。図鑑ではほかのイカと大して変わらないように見えるが、普通のイカよりとにかくデカいのだ。胴(外套膜)の長さは80cm、重さは20kgに達し、食用としては国内最大である。大きなその形からタルイカ、ウシイカの異名を持つ。巨大だからそのままの姿形で店頭に並ぶことはなく、皮をむいた切り身で売られている。ソデイカの卵もまたすごい。卵塊は長さ1m、幅30cmにも及ぶという。
鳥取県の岩美町では体の色からアカイカと呼び、釣りで漁獲する。イカを誘うイカヅノと呼ばれる疑似餌がまた大きい。長さが30cm弱もあり、それに白い布を巻いているからまるで「きりたんぽ」である。白い布を巻くのはソデイカが抱きやすくなるからだという。
大型なのでほかのイカとはおろし方が違う。まず胴の下から先端まで縦に逆さ包丁を入れる。胴を広げ、頭(目のある部分)と足(腕)と内臓とヒレを取り除く。次に胴の内側を上にして置き、胴の下から約1cmのところに横一直線の皮を残して切れ目を入れ、その切れ目から皮と身の間に少しずつ指を差し入れていって皮を取り除く。さらに薄皮を取り除いて横三等分に切り分けてから料理に合わせたサイズに切る。大きいから大味だという人もいるが、イカ特有の淡泊なおいしさを十分に持っている。刺身、煮もの、ごまあえ、天ぷらなど使い勝手がよく高級な紋甲イカの代用として利用されることもある。あっさりとしたイカをどう味つけするかがポイントとなり、おすすめはオリーブオイルとニンニクを入れたソテーだ。しこしことした弾力と豊かな香りが合わさって食欲をくすぐる。食後の満足感も重量級だ。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏