明日、どこに食べに行こう?
未知なる肉のワンダーランド!「イル ジョット」|大きな肉を食べよう⑦

未知なる肉のワンダーランド!「イル ジョット」|大きな肉を食べよう⑦

駒沢の住宅街の一角にある「イル ジョット」ではジビーフに近江牛、愛農ナチュラルポークなどさまざまな貴重な肉を味わえます。

住宅街の一角に驚きの味!

ジビーフのミートボール
ジビーフのミートボール。ジビーフを粗く刻んで団子に。草に似た香りと力強い味が広がる。アメーラトマトのソースも美味。
近江牛とポルチーニのカバテッリ
近江牛とポルチーニのカバテッリ。霜降りの近江牛はレアに火を通してなめらかさを強調。ポルチーニの香りがからまる陶然のパスタ。
愛農ナチュラルポークのブルスケッタ
愛農ナチュラルポークのブルスケッタ。愛農高校の生徒が育てた豚肉をハムに。ブッラータチーズが潜み、北海道の山わさびがアクセント。
高橋さん
高橋さんは広尾「イル・ブッテロ」で8年間修業後、イタリア・ボローニャで腕を磨いた。土地に根付いた素朴な料理に感銘を受け、自らの料理にもその思いを吹き込む。

燃えさかる炎が牛の塊肉を囲い込む。炭との距離はわずか1cm。こんな焼き方、見たことない。
焦げない?焼けすぎない?ハラハラ待つと、やってきたのは真紅の光を放つ一皿だった。周りはカリリ香ばしく、中はしっとり潤いをキープ。これぞ、高橋直史シェフの肉焼きマジック。焼く肉がまた、一筋縄ではいかない強者つわもの揃いだ。この日は、50日間熟成させた黒毛の経産牛、北海道で放牧されて育ったブラックアンガスの“ジビーフ”、岡山県で放牧酪農とチーズづくりを行なう「吉田牧場」のブラウンスイスなど。たとえば、熟成の経産牛は舌ざわりがなまめかしく、凝縮された旨味と香りが噛めば噛むほどあふれ出る。乳牛のブラウンスイスは優しく清らか。瑞々しい弾力は、草原で深呼吸するような気持ちよさだ。

炭火こんろ
肉焼きに使うのは焼鳥用の炭火こんろ。ギリギリまで炭に近づけ、炎を熾しながら高温で表面を焼き固めていく。炎の根元にあれば、すすけていぶし臭がつく心配もないとか。片面ごとに火からおろして休ませ、時間をかけて丁寧に焼き上げるのもポイントだ。

そんな至高の肉を目当てに、世田谷の住宅街まで肉好きが集まってくる。「メインディッシュのオーダーは8割が肉料理。肉を中心にしたコースのリクエストが入ることも多いですね。でも、うちはもともと魚のほうが人気だったんですよ」と苦笑いする高橋さん。ええっ!?肉じゃなかった??
聞けば、転機は開店11年目の2012年。料理を担当した知人のパーティーで、偶然出会ったのが滋賀県の精肉店「サカエヤ」の新保吉伸さんだった。肉の話で意気投合し、しばらくするうちに、肉を送ってもらうようになった。
「衝撃的でした。今まで手にしたことのない肉ばかりだし、すべて骨付きの状態で熟成させている。どうおいしくするか、ひたすら研究しました」

骨付きの熟成肉
出番を待つ骨付きの熟成肉。左から、近江牛、経産牛、ジビーフ、ブラウンスイス。肉の顔ぶれはその時々で替わり、どんな牛に出会えるかは行ってみてのお楽しみだ。

まず設けたのは肉専用の冷蔵庫だ。よい環境で保存して使っていけば、味の変化も楽しめる。炭火による独特の火入れも、このときに生まれた手法だ。 産地にも積極的に出かけるようになった。「牛の顔を見て、育てている人の話を聞くと、その牧場の牛を前にしたとき気持ちが違ってくる」と言う。肉の会やイベントの話も頻繁に舞い込むようになり、「牛一頭を味わい尽くす」というような難しい課題ほど、生来のチャレンジャー魂がメラメラたぎる。こうした肉に向き合う時間の蓄積が、店の新たな航路を開いていった。

ブラウンスイスと熟成経産牛の食べ比べ
ブラウンスイスと熟成経産牛の食べ比べ。左のブラウンスイスは乳牛としての役目を終えた母牛。熟成途中で、フレッシュなミルキー感が特徴。右の経産牛は柔らかく濃密な味わい。付け合わせの百合根は北海道から直送。

ただし、乗り込む船が変わったわけではない。肉に添えられた野菜まで、はっとするほど躍動的なのは、いい素材をシンプルに生かす考えゆえ。地元に根ざしたトラットリアであることも開店以来同じ。家族で誕生日のお祝いをしていたり、普段着で訪れワインと料理数品を楽しむ夫婦がいたり。その光景は修業時代から高橋さんが目指してきたもの。和やかな時間の中で、真っすぐな肉の味が体に心にしみわたる。

店舗情報店舗情報

イル ジョット
  • 【住所】東京都世田谷区駒沢5‐21‐9
  • 【電話番号】03‐6805‐9229
  • 【営業時間】18:00~22:30(L.O.)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】東急田園都市線「駒沢大学駅」より14分

文:上島 寿子 写真:海老原 俊之

※この記事の内容はdancyu2018年10月号に掲載したものです。