今回のお題“フレンチフライ”には、一体どんな真実が隠されているのでしょうか?私達が一度は食べたことのある、あんな料理やこんな料理には、隠された物語があることをご存知でしょうか?“知る”ことで、同じ料理が明日からちょっと美味しくなる連載をお届けします。
大いに盛り上がったFIFAワールドカップロシア大会の準決勝、フランス対ベルギー戦を観ながら、ポテトをめぐる両国のもう一つの戦いに思いを馳せたのは私だけではないはずだ。その戦いの名を「細長いフライドポテトの発祥地はどっちだ」論争という。
じゃがいもを棒状に切って揚げたものを日本では“フライドポテト”と呼ぶが、アメリカでは“フレンチフライ”と呼んでいる。アメリカで“フライドポテト”というと、ポテトを丸ごとあるいは大きめに切って揚げたものをイメージするらしい。フレンチフライとフライドポテトは違うものなのだ。
それにしてもアメリカではなぜ細長いフライドポテトにフレンチと名付けたのか?調べてみると、大きく二つの説が出てくる。一つは大統領説。1801年から8年間在任した第三代大統領トーマス・ジェファソンがヨーロッパを旅行中にフランスで細長く切って揚げたポテトを食べていたく気に入り、そこでレシピをアメリカに持ち帰って、ホワイトハウスのシェフに同じものをつくらせたという。実際、1802年に「potatoesserved in the Frenchmanner」としてメニューに登場している。それがフレンチフライと呼ばれるようになった。
そしてフランス人は誇らしげに言う。
「当然だよ。ポムフリットの発祥はフランスなんだから」
細長いフライドポテトのことをフランスではポム(じゃがいも)フリット(揚げ物)という。セーヌ川にかかるパリ最古の橋、ポンヌフの上に出ていた屋台でつくられたのが最初だというのが彼らの主張で、ポムフリットは別名をポンヌフと呼ぶ。
もう一つは兵士説。第一次世界大戦中にベルギーに行ったアメリカの兵士が細長いフライドポテトをつくっているところを見た。そのときベルギー人が話す言葉がフランス語だったからフランス料理と思い込んでフレンチと名付けたというのだ。
ベルギー人にとってはこれが面白くない。彼らはプライドをかけて強く主張する。「フレンチと名付けてもかまわないけど、フリッツの発祥はベルギーであることに間違いないから」。彼らは細長いフライドポテトのことをフリットの複数形でフリッツと呼ぶ。17世紀、ベルギー南部の小さな町で生まれたという。その町では川で小魚を獲って油で揚げてよく食べていたが、ある日、厳寒で川が凍って漁ができなかった。そこで当時は観賞用だったじゃがいもに目をつけ、魚の形のように細長く切って揚げて食べたのが最初だそうだ。フリッツは今や国民食で、どんな小さな町でも専門店があるほどだ。
誕生の物語性も普及率もなかなか秀逸。フランス対ベルギー、こちらの戦いはベルギーの勝ちだろう。たぶん。
ビストロの定番、ステーキフリットはポムフリットが添えられたステーキのことだが、その昔、ステーキをフリットした(揚げた)ものだと思っていた。
文:土田美登世 撮影:加藤新作 料理:田中優子
※この記事はdancyu2018年9月号に掲載したものです。