料亭などで珍重されるほど美味だというその魚の身質は、ジビエのようだという説があるという。見た目がグロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
カジカは日本固有の魚である。全長は15cmくらい。大きな頭と胸ビレなど姿形はハゼに似ていて、おせじにもハンサムではないのにオスはメスにもてる。なわばりを作ってハーレムのように複数のメスをそこに誘い、卵を産ませるのだ。ただ孵化するまではメスの代わりに卵を守り続ける健気なヤツでもある。また、同じカジカでも一生を河川で過ごすタイプと、河川で孵化して幼魚になると川を下って海で過ごし、また川に戻ってくる回遊タイプとに分かれる。金沢ではカジカを「ゴリ」と呼ぶ。無理を通すことを「ゴリ押し」というが、この言葉はゴリをとるために石の間に網を押して歩くという強引な漁法に由来するといわれる。
淡水魚のなかではトップクラスの美味を誇り、料亭でも珍重されるほどの質の高さだ。漢字では「河鹿」と書く。淡泊な味わいながら適度な脂と引き締まってコクのある身がジビエのようなのでこの漢字が当てられたという説がある。金沢を含む北陸では塩焼き、天ぷら、佃煮、味噌汁、から揚げなどカジカ(ゴリ)料理が広く知られている。「ゴリのあめ煮」は金沢のお土産として有名だ。
カジカ料理のおすすめは「味噌田楽」。東北の山村で稲刈りのひと休みのお供によく食べられてきた。木の実味噌の焼けた香りに誘われてほおばれば、骨のやさしい歯ざわりとともにクセがなく奥行きのある味が広がってくる。あの顔つきや体つきからは想像できない上品な味わいに、思わず口元がほころぶ。カジカは秋がうまい。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏