見た目は馬糞だが、高級鮨ダネとして人気の高いウニとは?見た目がグロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
鮨好きにはたまらない高級鮨ダネ、ウニは実に奇怪な生きものである。ナマコやヒトデと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間である。トゲだらけの球体はまるでイガグリ。トゲとトゲの間には吸盤の付いた細長い管足が密生して、この管足で海底をはい回って昆布やアオサなどのエサをあさる。口は腹面にあり、丈夫な5枚の歯が付いている。肛門は、なんと背にある。我々が食べている部分はそんなウニの生殖層、つまり卵巣や精巣である。
ウニの種類は多く、世界中におよそ800種類あり、日本近海でも100種類を超える。よく知られているものはムラサキウニ、アカウニ、バフンウニ、キタムラサキウニ、そしてエゾバフンウニの5種類。エゾバフンウニはこのなかでもっとも姿形が怪しいウニである。福島以北に棲息し、北海道で多く漁獲される。だからエゾの文字が名につく。体はほかのウニよりもやや扁平で半円球。トゲは短くて1cm未満。見た目はまさに馬糞だが、そのおいしさはウニのなかで1、2位を争う。産卵期の夏に北海道の浜へ出かけて自ら殻を割り、成熟した生殖層をすすると、濃密な味わいがゆっくりと口中にとろけてくる。
固体にもよるが、ムラサキウニの生殖層は黄色味を帯び、エゾバフンウニは黄褐色を帯びる。ムラサキウニもエゾバフンウニもすし屋のウニの二大巨頭だが、甘さとねっとり感ではエゾバフンウニに軍配が上がる。馬糞という名からはとても食欲はわかないが、舌にのせればそのおいしさで馬のように跳ねてしまうことは間違いない。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏