「知る」とおいしいコラム集
今さら人に聞けない食の基礎知識|食パン編

今さら人に聞けない食の基礎知識|食パン編

日本の食卓に欠かせない食材である「食パン」。あのふわふわもちもちとした幸せの食べ物はどのようにつくられているか知っていますか?パンづくりに欠かせない菌の話から、食パンの袋を止めている「アレ」の話まで、明日使える「食パン知識」をご紹介!

「天然酵母」は間違い?

パンは、小麦粉に塩、水、酵母を加えてこねた生地を焼いたもの。酵母の働きによって発酵が起こり、生地が膨らみ、弾力が生まれるのだ。
イーストは酵母菌の仲間。その詳細を、日本パン技術研究所に伺った。
自然界の酵母の中から製パンに適した酵母(パン酵母)を取り出して培養したものが、いわゆるイースト。その始まりは、オーストリアで酵母の量産培養が可能になり、イーストが広く利用されるようになった、19世紀末期だ。それまでは穀物や果実と水を合わせて発生した酵母でパン生地を発酵させていたが、酵母数や種類がその都度変化してしまい、発酵の進み具合が不安定だったという。
現在イーストに使用される菌種の大半は、サッカロミセス・セレビシエという酵母。勢いよく成長、発酵するので、効率よく安定したパン製造を叶えてくれる。ちなみにイーストとは、英語で酵母という意味だ。
イーストのことを化学添加物だと勘違いしている人も多く、パン業界では悩みの種だという。「天然酵母」の言葉の独り歩きも、イーストへの誤解の一因。酵母は生き物であり、現状、人工的につくることは不可能。“天然でない酵母”などないのだ。
最近では、商品の材料表示に「イースト」ではなく「パン酵母」と記載する動きが広がっている。近い将来、イーストという言葉は一般的でなくなるかもしれない。

「アレ」はもともとりんご袋のためにつくられた

食パンの袋の口を留めている独特の形をした“アレ”の名前をご存じだろうか。「バッグ・クロージャー」というのが正式名称だ。
発明者はアメリカ、南カリフォルニアの包装機械事業の経営者、パクストン。1952年、りんごを入れた袋の口を閉じる方法を考えていた彼は、移動中の飛行機の中でプラスチックの破片とポケットナイフを使って工作。そのときのアイデアが現在の形の原型で、これが評判を呼んでりんごだけでなくパンの袋にも取り入れられていった。
クロージャーを生み出した会社「クイック・ロック」は現在、アメリカ、オーストラリア、中国、ヨーロッパに支社がある。つまり、おなじみの“あの形?は世界共通なのだ。日本で使用されているすべてのクロージャーは、埼玉県川口市にある工場で生産しており、その数は年間約30億個!用途のほとんどは、パンの袋だ。基本の形は同じでも、穴の大きさは袋に合わせて微妙に変えているという。「クイック・ロック・ジャパン」に、正しい使い方を伺った。開けるときは、クロージャーの下に指を入れ、手前に持ち上げるように。閉じるときは、袋を軽くねじってから、クロージャーの穴を押し当て、しならせるように押し込むとやりやすい。
何度も使える便利なクロージャー。名前を覚えたら、パンを食べ終えても、可愛く思えて捨てられない?

イラスト:かざまりさ 文:森田彩子

協力/日本パン技術研究所、クイック・ロック・ジャパン
※この記事の内容は2018年4月号に掲載したものです。