今回のお題“サンドイッチ”には、一体どんな真実が隠されているのでしょうか?私達が一度は食べたことのある、あんな料理やこんな料理には、隠された物語があることをご存知でしょうか?“知る”ことで、同じ料理が明日からちょっと美味しくなる連載をお届けします。
「もぐもぐタイム」のいちごや「将棋めし」の親子丼など肝心どころのエネルギーチャージがなにかと話題である。
いつの時代もどこの国でも勝負めしは注目を集めるようで、世紀のイングランドの名門貴族であり政治家、第四代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューの場合は肉を挟んだパンを食べることが世間の大きなネタになった。彼は忙しくて食事をとる暇がなかったので、牛肉を挟んだパンを持って来いと言った。結果、「肉を挟んだパン」に彼にちなんだ名前がつけられることになる。その名は「サンドイッチ」。肉を挟んだパンは以前からあったので、彼が発明したわけではない。
モンタギュー家の初代であるエドワード・モンタギューが1660年、時のイングランド王から与えられた爵位がサンドウィッチであった。それはエドワードが所有していたイングランド南東部の小さな港町サンドウィッチ(Sandwich)に由来する名前である。
ジョン・モンタギューは第四代目のサンドウィッチ伯爵に当たるのだが、彼の代になって「肉を挟んだパン」をサンドイッチと呼ぶようになったのには二つの説がある。忙しいからその合間に食べていたことは両説共通だが、忙しい理由が正反対だ。
一つの説は伯爵がギャンブル狂で、賭けトランプに夜通しのめり込んでいたからというもの。没頭するあまり席を立つのも嫌がり、ゲームの手を止めずにお腹が空けば枚のトーストに牛肉を挟んだものを持って来させて食べ続けていたという。しかしこの説は彼の伝記を書いた人物から覆される。モンタギューは賭け事に興じる暇はなかったというのだ。
そこで出てきたもう一つの説は、デスクで執務に忙殺されていたから、というもの。実際彼は大臣を何度も務めていて、精力的に仕事をこなした。
はて、彼はギャンブル狂だったのか?あるいはワーカホリックだったのか?どちらにしても肉を挟んだパンは理想の食事であることには間違いない。片手で食べられるので、もう片方の手はフリーハンド。トランプをめくったりする手も、書類にサインをしたり手紙を書いたりする手も止めずして腹を満たせる。
サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューが片手に持った何かを食べながら作業に没頭する姿は絵になったに違いない。だからこそ、その姿の目撃者たちは彼がいつも食べる「肉を挟んだパン」に彼の名をつけた。そして肉だけではなく、パンに何かを挟んだものも通称サンドイッチと呼ばれるようになった。いつの日かいちごがソダネー、親子丼がソウタと呼ばれるようになったりして。いや、パソコン作業に没頭しがちなわれわれのほうが、次なるサンドイッチを生むかもしれない。
つちだ・みとせ その昔に某喫茶店で食べた卵サンドがマイベストだったが、久しぶりに行ったら味が変わっていてがっかり。胡椒とピクルスの加減のせいだろうと、自分で再現しようとするが苦戦中。
文:土田美登世 写真:加藤新作 料理:田中優子
※この記事はdancyu2018年6月号に掲載したものです。