人形町にある聞きなれない言葉が店名のおにぎり屋「シチロカ」。羽釜で炊いたお米と選び抜かれた素材でつくられる握り飯は、どこか懐かしいほっとする味わいです。
「シチロカ」のおにぎりは、朴訥である。まるで脱サラして開業した廣田顕さんの人柄がそのままおにぎりになったようだ。ただ、朴訥なだけではない。たとえば「シチロカ」という店名、ヒマラヤ辺りの未踏峰みたいだが、「活力」という熟語をパーツごとにバラバラにしてつくった造語なのだ!そういう具合に材料もつくりも抜かりない。秋田県大潟村産あきたこまちを羽釜で炊いたご飯は、ハツラツという言葉が似合うほどふっくらで、これを廣田さんは、独特のリズムで握る。
週に2回しかお目にかかれない“かしわめし”のおにぎりは、廣田さんの妻の故郷・九州がルーツ。妙々たる力加減で握られた、鶏だしの効いた炊き込みご飯は、口中で一瞬くっついた後ぱらりとほどける。それが鶏とほんのり甘いにんじんと一緒になると、口中一杯に素朴なのに重層的な旨味の渦が広がる。食べて一息つき「懐かしい」は味覚の一つなのだ、と思う。瞬間、すでに虜になっている。
文:加藤ジャンプ 写真:牧田健太郎
※この記事の内容はdancyu2018年11月号に掲載したものです。