四谷三丁目にある「オステリア デッロ スクード」は、ただのイタリア料理店ではない。ここで食べることのできるイタリアの郷土料理は、現地で食べるより旨いだろう。東京で味わえるイタリアがここにある。
チロル風の肉じゃがである“ティローラーグレーステル”は、素朴な滋味に心が緩み、グリーンピースを詰めたパスタは、優しい甘味がじっくりと舌に広がっていく。どれも初めて食べるのに、すっとなじみ、懐かしいような思いがよぎる。噛みしめれば、アルト・アディジェ州の澄んだ空気と、そこに暮らす人々の息遣いが漂ってくる。
2018年に独立した小池教之シェフは、イタリア全土の料理を、4カ月ごとに州を変え提供するという初の試みに挑んでいる。しかも、それぞれの郷土料理に対する情熱が、尋常ではない。
「伝統的な料理を細部まで磨き上げ、未来につながる普遍的な価値観を照らし出すのが、課せられた使命だと信じています」と、熱くシェフは語る。
伝統料理をなぞるだけではなく、食べられ続けてきた理由を考え、低温調理など現代の調理で仕上げる。そのため田舎料理の朴訥さとおおらかさを持ちながらも、極めて洗練されている。おそらく現地でも、これほどまでの料理は稀有だろう。ついに東京のイタリア料理も、ここまで来た。
これぞ、深い見識と高い技術による、世界中のどこにもない料理である。
文:マッキー牧元 写真:鈴木泰介
※この記事の内容はdancyu2019年7月号に掲載したものです。