巨大おたまじゃくしのようなルックスで、表面はねばねばと滑っている。食欲は沸かないが、うなぎに代わる日がくるかもしれない?見た目はグロテスクだけれど、日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介。
魚へんに念と書いて「鯰=なまず」と読む。念という字には粘るという意味がある。実際になまずの体表にはヌメリがあり、これが「鯰」のもとになったといわれる。ただこの「念」は、念仏からきたという説もある。「南無阿弥陀仏」が「なんまいだぶ」「なまだ」となって「なまず」なのだという。
しかしここはシンプルに人々の「念じる」気持ちが「鯰」という字を生んだと考えたい。何を念じるか。地震が起きないように、である。ご存じのように、なまずは古くから地震を起こす、地震を察する魚だといわれている。江戸時代の錦絵には、大明神がなまずを押さえて地震を封じ込めている絵がある。大きな頭は上下に扁平で、尾っぽの部分は左右に扁平。なるほど、なまずの姿形は大明神でなくとも上から押さえやすい。目は小さく、口が大きい。口の横には2対のヒゲがある。英語でCatfishと呼ばれるのは、そのためだ。
姿形は巨大なおたまじゃくしのようで、色は全体に暗灰色。とてもじゃないが見ただけでは食欲はわかない。だがこのなまず、実はすこぶるうまいのである。なかには臭みのあるなまずもいるが、それは育った環境がよくなかった可能性が高い。青森県・小川原湖などのきれいな水で育ったなまずの刺身はきれいな白身で、ふぐに匹敵するほどのプリッとした食感と、うま味と甘味を合わせ持つ。
なまずはうなぎのように、生命力が強い。水から長い時間出しておいてもずっと生きている。その力の元は魚やカエル、エビなどなんでも食べる貪欲さにある。栄養価が高く、蒲焼きなど料理法もたくさんあってパワーフードとしても君臨している。うなぎが出回らなくなったら、いよいよなまずの出番かも知れない。なお、別種だがアメリカナマズもいて、こちらはフライやムニエルに向いている。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏