怪魚の食卓
「エビ」とも呼ばれるがエビではない|怪魚の食卓⑧

「エビ」とも呼ばれるがエビではない|怪魚の食卓⑧

茹でると赤茶に色付き、食感もエビ。でもエビではない海の生き物ってなんだ?見た目はグロテスクだけれど、日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介。

生態そのものが怪魚「シャコ」

シャコはエビではない。「シャコエビ」「ガサエビ」と呼ぶ地方もあるが、断じてエビではない。鮨屋で並んだシャコは茹でられて殻をむかれているから、厚みのある白身と縞模様でエビと思う気持ちはわかる。だが、殻がむかれる前のシャコを見ると、そうでないことを納得するだろう。

頭には大小4本の触覚が生え、カマキリのような鎌とムカデのような6本の脚がのび、シャベルのような平たい尾を持っているのである。姿形だけではなく、生態も奇妙だ。

内湾の水深10~30メートルの泥砂底にU字型の穴を掘り、その両端に大小ふたつの出入り口があるマイホームを作るのだ。巣穴で外敵から身を守りながら外出して、小エビや小魚を捕食したらわざわざ巣穴に戻ってそれを食べるというお行儀のよさである。

シャコは底びき網漁や刺し網漁で漁獲される。刺し網漁では、海が荒れて海底が濁るとシャコが一斉に巣穴から出て来て餌をとる習性があるため、その前を狙って網を仕掛ける。ただ、体中がギザギザしているので網にからまったシャコをはずすのは大変だ。

さらに、シャコは死ぬと鮮度が落ちやすく水っぽくなってしまうため、生きている間に茹でてしまわないと殻がむきにくくなる。そのため、都会の鮨屋で見かけるシャコは、産地で茹でてから殻を取り除いてむき身にしたものがほとんど。だから、殻付きのシャコは産地でしか食べられないと言っていいだろう。

ハサミで殻の両脇を切り落とし、殻をはずしやすくして食べる方法もあるが、ここは手で表の殻をむいて、むしゃむしゃかぶりつくのがよい。気品のある甘味とふんわりとした身の締まり具合、殻に残った汁気まで食い尽くせてなんともうまい。滋味という言葉がしっくりとくる。

茹でシャコ
1 鍋に湯をわかし、塩を入れる。
2 生きているシャコをそのまま茹でる。最初は強火で、再び沸騰してきたら中火にして火を通す。
3 ザルにあげて水気をきり、皿に盛る。
茹でシャコ

解説

野村祐三

日本全国の町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏