〈アイスクリームを舐める〉という表現があるが、どうもしっくりこない。アイスクリームへの渇望が全く感じられないのだ。
ハーゲンダッツアイスクリームの王様的美味しさに、「舐める」なんかではとても追いつかないだろう。悠長にペロペロしている場合ではない。かといって、口いっぱいに頬張って、バクバク食べたいわけでもない。アイスクリーム好きである私のイメージで言うと、それは「ごくごく飲む」に近いのだ。飲むように食べてしまうほど、止まらない。飲み物ではないのに〈○○は飲み物です〉という言い回しを見かけるが、それほど渇望してしまうという意味で〈飲み物〉と表現したくなるのだろう。
ところで私は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という映画が、狂うほど好きだ。当時子役だったキルスティン・ダンスト演じるヴァンパイアが、自分より大きな人間にかぶりつき、最初はコクコクと、そのうち、もうたまらんというように、ゴッキュゴッキュと、相手の致死量を超えて飲み干そうとする。私だって指を切った血くらい舐めたことがあるが、あれほどの渇望は感じられなかった。血を飲み物と思えない自分が残念である。
『バクちゃん』は、バク星人の少年だ。彼の住む星にはもう、食べる夢が枯渇していた。バクとはいえ、初めて地球で食べたものはリンゴだったし、下宿先では、トーストも手巻き寿司も美味しそうに食べている。
だが、夢の美味しさは別格らしい。夢は何やら光り輝く粒のような形をしていた。他のものを食べても生きていけるのに、住み慣れた故郷を離れ、様々な困難にぶち当たりながらも、地球で移民として生きるほど、渇望している。私にとって、それほど特別な食べ物はない。
夢ってどんな味だろう。夢への夢が、私の中でいくら膨らんでも、やっぱりその夢の美味しさは、バクにしかわからないのだった。
文:新井見枝香 イラスト:そで山かほ子